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種田陽平、栗山千明がタランティーノの現場を語る

タランティーノの新作『ヘイトフル・エイト』が2月27日(土)から公開される。これに先駆けて、15日(月)、スペースFS汐留にて一般試写会が行われ、同作で美術監督(プロダクションデザイン)を担当した種田陽平とタランティーノ監督と仲が良い女優の栗山千明が登壇し、タランティーノ談義に花を咲かせた。

『ヘイトフル・エイト』はタランティーノにとって8本目の長編映画である。8という数字がタイトルに使われた作品で、今回は西部劇スタイルの密室ミステリーになっている。

タランティーノという人ほど、作品のひとつひとつがブランド商品のようなものを感じさせる映画監督はいない。作品数も多くはなく、一本一本丹念に作っているから、ひとつひとつ作品のタイトルが順番通りに自然と口から出てくるような監督である。その意味ではチャップリンや宮崎駿のような監督と言える。司会の高橋ヨシキは「タランティーノの血管の中にはフィルムが流れている」と言っていた。タランティーノはとにかく映画好きで、映画を見ているとその映画愛がダイレクトに毎回伝わって来る。8人の重要人物のかけあいを描くあたり、一見ジョン・フォードの『駅馬車』を彷彿とさせるが、得意のバイオレンス描写も盛り込みつつ、後半からぐいぐい引き込んでミステリーの渦に放り込む手腕の見事さ、これはもうさすがタランティーノ、この一語に尽きる。

タランティーノの映画を語るとき、映画ファンなら誰しもついつい熱くなってしまうものだが、この日のトークショーでは、あの種田陽平と栗山千明がタランティーノのことについて熱く語ってくれたわけで、それは我々映画ファンがタランティーノを語るのとは訳が違っていて、現場の臨場感がありありと伝わってくるものであった。

種田陽平というと、映画美術という世界を一躍有名にした貢献者である。岩井俊二、三谷幸喜の映画で知られているが、「映画を美術で見る」という行為を初めて映画ファンに気づかせたのは種田陽平の存在が大きかった。『キル・ビル』の最も有名な大立ち回りシーンの美術セットを手がけたことで世界的なプロダクションデザイナーとして評価され、タランティーノ映画でももはや常連になりつつある。『ヘイトフル・エイト』ではワンルームのロッジを舞台に疑心暗鬼のドラマが展開されるが、なにかきなくさい雰囲気の漂う美術空間の演出は本作の大きな見どころになっている。

種田はトークショーでも非常に熱くタランティーノという人物の凄さについて語ってくれた。最も印象に残ったのは、現場のとき、ダメとは言わず、「OK」というのに、また何度も撮影すること。「OK! すごく良かったよ! 良かったからまた撮ろう! なぜなら〜、映画を撮るのが好きだから〜!」これがタランティーノの現場での口癖みたいなものになっているそうだ。気に入らないからNGなのではなく、気に入ったからまた撮影したいということで役者も気持ち良く演技ができるという。タランティーノ本人も血糊を浴びて一緒に楽しみながら撮影するそうだ。そうやって何度も楽しんで撮っているうちに、ベストだと思っていたもの以上のシーンが生まれてくる。さらに、タランティーノは駅馬車に女性の名前をつけて呼んでいたという。「どんな物でも、名前をつけると、まるで生を受けたように動き出してすごい演技をするんだ!」とはタランティーノの言葉。

栗山も「また出たいです」と再タッグを熱望しており、タランティーノが来日するたびに「英語は上達したか?」と聞かれて「日本語は上達しましたか?」と返し、「お互いにまだまだだね」といって笑っているという。

また、現場ではタランティーノは「ああそう」という日本語を日常的に口癖のようにずっと使っているそうだ。七変化俳優のマーロン・ブランドがとある映画で日本人役を演じていたときに何度も「ああそう」と言っていたが、タランティーノももしかしたらその映画の真似をしているのかもしれない(憶測だけどね)。

本作の音楽はエンニオ・モリコーネが担当した。これまで『アルジェの戦い』などモリコーネの曲を自作に使用してきたタランティーノだが、ついに念願叶い、敬愛しまくるモリコーネ本人にオリジナルスコアを作ってもらうことになったのである。既製曲にずっとこだわってきたタランティーノが、ついに自分の映画のためだけに作られた音楽を爆音で流すときがやってきた。最初のクレジットに「エンニオ・モリコーネ」の名前が大きく出てくるところは、やはり感慨深いものがある。

この映画で最も誰かに熱く語りたいことは、これが70mmのフィルムで撮影していることだ。70mmなんて言っても今の映画ファンには皆目ピンとこないと思うが、クラシック映画ファンならばもう70mmといったら聖域のような世界。「これが映画だぁ!」というような世界がそこに広がり、映画を見るひとつの選択要素でもあった。しかし、大画面大スクリーンの時代は1960年代で終わり、70mm映画はそれから作られていない。つまり、半世紀も前の古き良き時代の遺品を今ここにタランティーノが蘇らせたということになる。無論、現代人の多くは70mmの映像は未体験である。しかしそれが半世紀前は最高のステータスだった。映画マニアにとってみれば、体験したくてもできなかったことが現実に体感できるのだ。1:2.76という縦横比で見る映画は、普段我々が見ている映画とはだいぶ味が違う。そして大きなフィルムなので粗さもなく、アナログ本来の陰影の深さを体感できるのである。映画ファンにとっては映画を見ることとともに、古き良き遺産に触れる絶好の機会であることを忘れないでいただきたい。今時デジタルシネマの時代に、こうして半世紀前のフィルム技術を使うということ、もうこれは映画を愛し愛し続けたタランティーノの世界ここに極まれりという感じである。

最後に、種田はこの作品に関われたことについて、本当に良かったと語っていた。「なぜなら、これはマスターピース(名作)だから」と力強く語っていた。(取材・澤田英繁)

2016年2月16日 00時44分

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