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『百日紅』がアヌシー映画祭長編コンペ部門に正式出品決定

4月28日(火)、TOHOシネマズ日本橋でアニメ映画『百日紅(さるすべり) -Miss HOKUSAI-』のジャパンプレミアが行われた。プレミアには声優を務めた杏、松重豊、濱田岳、子役の清水詩音ちゃん、そして原恵一監督が出席した。

原監督と言えば、日本でも最も新作が期待されるアニメ監督の一人だと思う。『河童のクゥと夏休み』は傑作だった。今作は『カラフル』から5年ぶりの新作になる。5年というのは普通の監督からしてみると長過ぎるが、アニメ監督の場合、それだけ作るのに時間がかかるのだろう。とにかく待ちに待った新作の登場である。しかもこの新作は、原監督自ら「今回の作品はすごく自信がありますから。期待してみていいですよ」とまで話していた。

作品では、葛飾北斎が活躍していた時代が描かれている。葛飾北斎の代表作、富嶽三十六景の絵も劇中に登場するが、これがダイナミックに動き出す。北斎のファンで、たまたま富嶽三十六景がプリントされたハンカチをポケットに入れていた僕は胸が高鳴った。

北斎に面倒見がいい娘がいたことはよく知られているが、この物語は北斎の娘を中心に描かれている。原作は杉浦日向子で、主題歌は椎名林檎だ。原監督は「時代劇はアニメの方が合ってるかもしれないね。江戸の世界も描けばそこに広がる。今回はロックな感覚も取り入れている」ということを話していた。

映画を見て思った感想は、やはり丹念に精魂を込めて作っているということである。アニメーション制作はProduction I.Gによるもの。特に着物がすれる音など、普段のアニメでは意識的に入れなかった生々しい音響がよく再現されていると思う。あとは描き込まれた江戸の世界。とくに遠景のシーンが素晴らしい。橋を映したシーンなど、浮世絵の世界がそのまま広がっているようで、吸い込まれるような美しさがある。

また、杏はじめ、声優陣の演技が実にイメージがぴったりである。結婚もしないで、枕絵を描いてるようなちょっと変わった婦人を、凛とした感じで演じていた。すぐに杏だとわかるけど、でもそこが良い。松重豊は最近声の仕事が増えて来たように思うが、安定の北斎役。濱田岳は意外にハマり役で、本人も声優初挑戦とはいっていたが、とぼけた感じの役どころが現実とシンクロしまくっていた。

北斎は世界的に人気が高く、世界で最も名前が知られた日本人と言われているが、そのせいか北斎が登場する本作はやはり世界からの注目度も高く、すでにフランス、イギリス、ベルギーなど、ヨーロッパの6カ国で配給が決定している。そして、あのアヌシー国際アニメーション映画祭で応募総数2600本を超える中から、見事長編コンペティション部門の出品作10本のうちの1本に選ばれたことが発表された。日本映画では過去宮崎駿監督『紅の豚』、高畑勲監督『平成狸合戦ポンポコ』の2作が同じ賞を受賞しているが、原監督がこの2本に続いて受賞するかもしれない。原監督は「アヌシーに行くのはこれが初めてではない(『カラフル』でも行っている)。海外で配給されることについては何も心配はしていない。今まで海外の観客を見て来たが、日本の観客と何ら変わらない感想を言ってくるんです」とコメントしていた。

日本ではアニメ映画でヒットしている作品の多くがテレビアニメの長編版である。しかし、今回はテレビが入っていない。ひとつの純粋なアニメ作品として、どこまで行けるのか、興味深いところである。公開は5月9日から。(澤田)

2015年4月29日 21時12分

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