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松坂桃李、『マエストロ!』で役者として大きく成長

1月31日(土)、有楽町で行われた『マエストロ!』の初日舞台挨拶を取材した。舞台挨拶には主演の松坂桃李を始め、共演者の西田敏行、miwa、古舘寛治、大石吾朗、河井青葉、池田鉄洋、モロ師岡、村杉蝉之介、小林且弥、中村倫也、嶋田久作、監督の小林聖太郎、原作者のさそうあきらが揃って登壇した。

筆者もこれまで数々の舞台挨拶を取材してきたが、本当に良い映画の場合、登壇者の態度も全然違っているものである。ここ数年の取材で僕の記憶に残っている舞台挨拶をあげるとすれば、井上真央主演の『八日目の蝉』、妻夫木聡主演の『悪人』、神木隆之介主演の『桐島、部活やめるってよ』だった。僕ら記者なんて、残念ながら舞台挨拶だけ取材して映画を見ていない場合がほとんど。できるだけ見るようにしたいけど、なかなかうまくいかないもの。しかし、舞台挨拶を取材して、「いや、これは何か違うぞ」という、登壇者の面持ちからして明らかに他の映画にはないオーラを発散している舞台挨拶がある。そのオーラは言葉では言い表せるものではなく、僕はそれを天籟(てんらい)と言っているのだが、そのオーラを感じると、もう映画を見たくていてもたってもいられなくなる。そういうオーラを久しぶりに感じたのが、この『マエストロ!』の取材だった。なんというか、松坂桃李くんの態度、目の表情がいつもと違っていて、この映画にかける思いの大きさをひしひしと感じたのである。取材して、その10分後に僕はチケットを買っていた。どうしても見たくなったのである。見てよかったと思う。本当に感動した。涙が出た。

松坂桃李くん、本当に良い役者になった。僕が桃李くんを初めて取材したのは今から5年前のこと。戦隊ヒーロー映画の主役だったけど、まだ他に出演作がなく、そのときの印象は「ザ・好青年」という感じで、まったく悪い印象がしなかった。「将来有名になるといいな」と思っていたけど、今じゃ黒田長政役から何まで引っ張りだこの大人気俳優になっているではないか。陰ながら応援していたので、こうして有名になっていくのは嬉しい。

今回演じるのは、バイオリニストの役だ。撮影前から1年半、猛特訓を受けて弾けるようになったという。バイオリン、最初はなめてかかってたら思いのほか難しくて、特訓は地獄のような日々だったらしい。舞台挨拶では、この間、別の映画で瓦割りをやらされる無茶振りがあったかと思えば、今度は11億円のバイオリン、ストラディバリウスを弾かされたり、「舞台挨拶では何かやらされる」というトラウマが桃李くんの中にできてしまったようで、この日も「サプライズと言ってまたバイオリンを弾かされるのかと思った」とコメントしていた。桃李くんのことだから、多分前日練習してて、本当は弾きたかったんじゃないかなって思ったけど。

でもやっぱりサプライズはあった。共演者、西田さんからの感謝の手紙である。この手紙がかなり真面目なメッセージで、「この映画のコンマスは松坂さんでした。素晴らしい努力と情熱で、毎日バイオリンを離さない姿に胸が熱くなりました」としみじみと語ってくれて、桃李くんも感慨無量という表情で聞いていた。桃李くん、最後には「音楽というのは素晴らしいです。最高の栄養剤のようなエネルギーを与えてくれます。そんな純度100%の映画です。本当にたくさんの人たちの力でこの作品を温めることができました。最後は皆さんの言葉でこの映画を完成させてください」と力強くコメントしていた。

桃李くん、舞台挨拶ではお客さんに深々と頭を下げて感謝の気持ちを表し、なかなか頭を上げなかった。記者たちに対しても「マスコミの皆さんもありがとうございました」と言っていた。僕ら記者にまでお礼を言ってくれるなんて、なんだか嬉しいな。本当に心からこの映画に出られたことを感謝しているようで、舞台挨拶が終わって舞台からおりる直前にも今一度「ありがとうございます」と言っていたし、出口から出る直前にもまたお辞儀して感謝の言葉を贈っていた。最後はマイクが入ってなくて聞こえなかったけど、何度でもお礼が言いたかった気持ちは伝わったし、この映画にかける情熱がそれだけ大きかったのだろう。

共演のmiwaは、女優として初めての映画出演を果たした。僕の小さな姪っ子はmiwaの大ファンで、ずっと応援している。「CDデビューしたとき、お店で自分のCDを見てデビューしたんだと実感しました。今日こうして初日を迎えて、女優になったんだと実感しています」とコメントしていたけど、映画では初出演とは思えない、素晴らしい存在感を見せている。

この日はすべてがうまくいった舞台挨拶だったけど、ただひとつ悔やまれるのは、濱田マリと斉藤暁の2人が来なかったことだ。楽団メンバーひとりひとりのキャラクターのエピソードが生き生きと描かれ、群像劇としての側面がある本作だから、オーケストラがこの晴れの舞台に全員揃わなかったのは残念でならない。全員集合した状態で写真を撮りたかったものである。

さて、『マエストロ!』だが、これはぜひスクリーンで見て欲しい映画である。この感動は、立派な音響、大きな画面で見なければ伝わって来ないと思う。ベートーベンとシューベルトの交響曲が重要な役割を果たしている作品だが、まず最初に『孤独のグルメ』よろしく、松重豊の『運命』の意外なウンチクから始まって、巧妙な話術でぐいぐいと引き込んでいく。シューベルトの『未完成交響曲』はあまりにも有名な作品であるが、この曲の何が素晴らしいのか、はっきりとした言葉で説明してくれるのは気持ちのよいものである。音楽の知識を前半で頭に叩き込んでから、最後にじっくりと聴く本物のオーケストラの演奏は、ただただ感動せずにはいられない。ただもう純粋に音楽の美しさに胸を打たれる作品である。まあ言ってしまえばベートーベンとシューベルトが凄かったってことになるんだけど、でもそれを映像という目に見える形で表現したのは賞賛に値する。譜面だけでは見えて来ない、音楽の感動を映像で。これはぜひ映画館で体感して欲しい。(文・写真:澤田英繁)

2015年2月2日 01時22分

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