『真夜中の五分前』三浦春馬、中国と日本の違いについて語る
12月27日(土)、新宿バルト9にて『真夜中の五分前』の初日舞台挨拶が行われ、主演の三浦春馬(24)と行定勲監督(46)が登壇した。
かつてピカソは「アーティストにとって最大の敵はスタイルだ」と言った。日本の映画界にもスタイルを変えて来た監督がいる。それが行定監督だ。行定監督は「こういう映画があってもいいんじゃないか」と言って、これまでに何度も新しいことに挑戦して来た映画界の革命家だ。『真夜中の五分前』では全編上海ロケを敢行して、今までになかったスタイルのラブ・ミステリー映画に仕上げている。セリフは少なめにして、今回は何よりも役者の表情を重視して場面を構築していったという。上海の少し霞みがかった空気感が、日本映画には出せない独特のムードを醸し出している。10月の釜山国際映画祭を皮切りに、中国・台湾・シンガポールで公開。世界を回って来て、日本では27日から凱旋する形で公開が始まった。
この日の舞台挨拶は、色んな意味で、大変記憶に残るものとなった。まずひとつは作品そのものに対する観客の反応の大きさである。映画の上映後に三浦春馬と行定監督が登壇したとき、観客の多くが立ち上がって拍手を送った。いつまでもなりやまなかった。こういう初日舞台挨拶の場所でスタンディングオベーションが起きた例は他に見たことがない。感動のひとときである。それを受けて三浦は「監督の奮起を中国で見て来たので、その熱意、がんばりが、こうやって皆さんのもとに届いて拍手を頂けるのは本当に嬉しいです」と喜びを語っていた。行定監督は「色々と問題があって諦めかけていたときに、"三浦春馬が中国語を練習してすげえやる気なんですよ"って言われて、”これはやんなきゃいけない”って思った。ひとりの俳優がやる気を出して中国語に向き合っていると聞いて、我々は乗り切ることができた。背中を押してもらったことを感謝しています」と三浦に対し礼を言っていたが、三浦の方も「僕は『真夜中の五分前』という船に乗せていただいているだけなので、逆に自分の努力を一緒に頑張っていただいて形にして届けられたことも嬉しくて、こちらこそありがとうございます」と監督に対して礼を言っていた。
中国での撮影ということで、何もかもが新鮮だったという二人。二人が中国と日本の違いについて色々と語ってくれたが、このエピソードがかなり笑える話で、二人のトークのかけあいのうまさもあって、観客は終始爆笑していた。
監督「中国のスタッフは映画を撮ってるときはものすごく嬉しそうにしてるんですよ。びっくりするぐらい笑顔なのね。日本のスタッフの方が眉間にしわが寄ってるんですよ。段取りを考えてるから先のことが気になってしょうがないんだね。中国のスタッフは後先考えてないからみんな笑顔。昼飯の時間が一番の笑顔になる。”ご飯来たぞー!”ってでっかい声でいうんだよね。製作担当の一番元気のいい声は”ご飯だぞー!”で、みんなが”オー!”といって食べ始めるんだね。それくらい日本と違う。映画の撮影は喜びがあるっていうのを、我々としては観客にそれを伝えなきゃいけない。すごく考えさせる現場だった。すべてのスケジュールがうまくいくことばかりを念頭において作る日本映画ってのがあって、片や段取りがまったくできてないけど、”今俺たちが撮ってるときはおもしろいだろ”っていう。だいたい撮影が滞るんで、こっちはもちろん胃が痛くなるんですけど、アジアと融合して映画を作るって大変なんだけど、考え方ひとつではすごく良い分もある。一緒にやっていくべきなんだろうなって思うし、上海でできたことは大きかったかなと思います。僕はハオしかわからなかったけど、三浦くんは結構中国語で会話してたよね。台本でもあったの?」
三浦「中国では記者会見とかも台本がなかったですね」
監督「そうだよね。俺たちじゃなくて司会が主役なんだよね」
三浦「喋ってるときに効果音でビヨヨヨヨ〜ン!とかボーン!とか音を出してくるんですよね(会場笑)。なんでしょうね。こちらとしては映画を多くの人に見て欲しいから必死に良いことを言おうって思って、興味を持ってくれるように用意した言葉だったり話している最中にビヨヨヨヨ〜ン!ですよ。笑うしかないですよ(会場笑)」
監督「効果音で笑い声とか出してるよね。司会者がすごいエゴイストだから。フランクな感じでね。ダーツ大会もやるからね。ミニゲームを必ずやるんですよ。挨拶させてくんないよね。ミニゲームが主体だから」
三浦「”こちらにダーツのプレートがありますんで、こちらでやってみましょう!”って、何をしに来たんだろう俺たちって。ダーツの腕を褒められに来たわけじゃないんだから(会場笑)」
監督「こうやって、俺もダーツをやるんですけど、うまくやったら、”うまいねえ! 監督、ダーツやってるでしょ!”って。俺中国のものすごい遠くまで飛行機で移動して来たのに、ダーツをしたら、”はい、終了です”って。映画の話は最初にひとこと言っただけですよ(会場笑)。だいたい日本の舞台挨拶がかたっくるしいんじゃない? もうやめない? もう記者の人も飽きてると思うんだよ。ダーツやろ。ダーツね(会場笑)。土地土地によって違うんだよ。双子が5組くらい出てきて、双子当てクイズってやるんですよ。どっちが姉でどっちが妹でしょうかって。そんなのどうでもいいじゃんね(会場笑)」
三浦「しかもお客さんではなくて、僕達に向けて双子が並ぶわけで、お客さんは双子の顔も見れないんです。お尻しか見えない。お尻で判断してもなぁ(会場笑)」
監督「右とか左といって、”当たりで〜す! はい、終わり〜!”って(会場笑)。当たったら何かあるのかなって、何もなかったですね。日本もこういうので革命を起こしたらどうかな」
三浦「本当に勉強させていただきました」
監督「トニー・レオンとかでもやってるっていうんですから。(共演者の)リウ・シーシーさんは寡黙な方で、車の音にかきけされるくらいウイスパーボイスでね、撮影で大変だったんですけど、彼女はダーツやんないのね。しかもわけわかんない劇場のスタッフに”あなたやって”って言われて、その人がダーツやってんのよ。何が面白いんだろうって(会場笑)」
三浦「戸惑ってましたよね(会場笑)」
監督「それが僕らの経験だよね(会場笑)。僕が三浦春馬くんへ手紙読むとかじゃなくて、ダーツっていう。それ面白いよね。観客を突き放すみたいな。これ新しいと思うよ(会場笑)」
こんな感じである。もうトークの内容は映画とは関係のないものになっていた。それでも、ちゃんと最後には「『真夜中の五分前』というタイトルの意味をそれぞれ考えていただければと思います」と言って、しっかり映画のことで締めくくったのは、さすがは行定監督と言わせるものがあった。(澤田英繁)