新疆ウイグル自治区 中国政府と米政府の報道に相違
8月8日(金)、永田町で行われた日本ウイグル協会イリハム・マハムティ会長の緊急記者会見を取材した。7月28日(月)に中国の新疆ウイグル自治区カシュガル地区ヤルカンド県で起きたとされる事件について、中国当局の報道とアメリカ政府系放送RFA(自由アジア放送)が調査した情報に大きな食い違いがあったことについて、イリハム会長自身が見解を述べた。
7月30日(水)の中国当局の報道によると、「28日の朝、刃物を持った武装集団が地元政府庁舎などを襲撃し、市民に無差別に切り付け、漢族35人、ウイグル族2人が殺された。警察は法に則り、暴徒59人を射殺した」とされており、「綿密に計画された組織的なテロ事件」と報じていた。
一方、RFAによると、「3000人以上のウイグル人が武装警察に殺された」という手紙が届いたといい、RFAが現地に電話取材を行ったところ、現地住民は「28日から1日までの5日間で、警察の車がずっと走っていて、村の家から外に出た人を武装警察が無差別に発砲し、2000人以上の人が死んだ。町のあらゆるところで死体が見え、家から外に出られない」と証言していたという。
現在ヤルカンド地区はインターネットを遮断され、マスメディアも排除され、現地の情報は中国当局に制御されて、実際どうなっているのか、はっきりしたことはわからないという。イリハム会長は「この情報が本当かどうか、外国のメディアが現地に入って、日本政府はじめ、国連の代表部はじめ、このことを国連に提出し、国連から指定して第三者の機関が独立的な調査をして欲しい。これが真実であれば、世界的に中国を非難して対応していかなければと考えている」と訴えた。
イリハム会長が言うには、以前より中国でウイグルに対して理不尽な弾圧が起きており、中国政府はその真実を一切外に出していないという。この地域は共産党の幹部以外はウイグル人だが、実権はすべて漢民族が握っており、イスラム教を連想させる服装はウイグル自治区では政策として禁止され、髭をのばすだけでも違法にあたり、市民の宗教的自由が奪われているという。コーランの所持も厳禁であり、パソコンなどにイスラム教に関するデータを持っているだけで罰される。習近平は新疆ウイグル自治区における「対テロ戦争」を宣言しており、ウイグル自治区は現在軍事体制が敷かれている。ただ運動のために体を鍛える道具を持っているだけで取り締まられ、19歳前後の若者たちが最低3年、最高7年の実刑判決を下されたこともあったという。この地区では、ウイグル人の携帯電話の画像データをいちいちチェックするほど厳重に取り締まっているという。
中国政府がウイグル人の家を捜索するのは当たり前のことになっていて、武装警察が村人の家に勝手に入り、イスラム教のスカーフを女性がつけているところを見て、それを無理に剥がしたところ、その夫が警察と喧嘩になって、幼い子供から老人まで無差別に射殺される事件が多数起きているという。しかし中国政府の発表では殺されたウイグル人は皆「テロリスト」扱いにされる。「これは怒りから突発的に起きた事件であり、ウイグル人が計画的にやったわけではない。組織的なレジスタンスは現在不可能だと考えている」とイリハム会長は言う。なぜなら、2009年のウイグル騒乱以来、ウイグルでは5人が公的な場所以外で一カ所に集まって集会をすることができない状況になっているからだという。GPSで携帯電話の位置が監視されており、長時間一カ所に5人も集まっていると「テロ計画の疑いあり」として取り締られてしまうのだという。
ウイグル地区ではイスラム教が禁止されているが、寧夏回族自治区では許可されている。なぜウイグルが差別されているのかというと、「ウイグル人が”私は中華人民共和国の一員じゃない”と表明しているから。中国は民族浄化政策の一環でウイグル人を差別している。寧夏回族は中国系イスラム教徒が多かったから自治区になったという話で、寧夏回族は国を作った経験はないから心配していない」とイリハム会長は説明している。そのため、ウイグル人はパスポートをそう簡単には入手できない状況になっている。メッカに行きたくても、パスポートを入手するためには何重もの手続きと多額の賄賂が必要だという。外国に亡命したウイグル人も中国に強制送還され、70%が処刑されている。外国では中国に密告者を送還するとお金がもらえるから、ウイグル人が中国からお金をもらう道具になっている側面もあるという。中国政府によるこうした恐怖政治から「ウイグル人に他の選択肢は無く、何をやっても受け入れるしかない」というのが現状だとイリハム会長はいう。
「今中国では国防費より治安費が上回っている。このお金は、公安と武装警察の財布の中に入る。ウイグル地域で問題が起こらなければ武装警察はお金をもらえない。だから問題が起きなければ自分で計画して、罪も無い人間を殺して、あとでテロリストを殺したという理由を付けて世界に発表する。そしたらウイグル地域には上からお金が入ってくる」というのがイリハム会長の見解である。
日中両国政府間の記者交換に関する協定などの関係で、日本でも中国について報道するにあたっては約束事のようなものがあり、なかなか日本のメディアはその真実を伝えることができない面もある。その上、そもそも現地ではメディアが排除されており、インターネットも遮断され、写真さえも所持が許されない状況にあるので、今のところは現地の状況について外国からは何もわからないというのが実際といえるだろう。中国政府の言っていることが正しくないと断定することはできないが、イリハム会長のいうように、現地に第三者メディアが入って事実確認をする必要はありそうだ。
イリハム会長は「今中国が一番ウイグルで制限するのが日本人と日本のマスメディア。全世界的にもトルコや兄弟の国に続いて、ウイグル問題を世界に知らせたのは日本人だ。だから中国人は日本人がウイグルに行くことを嫌がっている。それはマスメディアの努力の結果だと私は受け止めている」とも評価しており、「世界のどこかで5人、10人が死ねばニュースになるが、ウイグルでは何千という人が死んでも、なかなか報道してくれない。これは国際社会から中国に圧力を加えて、各メディアが自由に入って現地で各事件を調査するべきだ」と強く訴えていた。