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『her/世界でひとつの彼女』スパイク・ジョーンズ監督が不可能を可能にする

5月29日(木)、スペースFS汐留にて『her/世界でひとつの彼女』の試写会イベントが行われ、来日したスパイク・ジョーンズ監督とスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが特別対談を行った。

スマートフォンについている音声認識システムSiriに話しかけてびっくりしたことがある。こっちが言ったことをほぼ完璧に聞き取って、それにちゃんと答えていた。もしも、誰かがSiriに恋をしたら、面白い話になるだろう。それを真面目にやっちゃったのがスパイク・ジョーンズ監督である。『マルコヴィッチの穴』など一風変わった作風で人気の監督である。まだSiriというものがなかった頃から構想を練り始め、去年完成、公開するや、名だたる評論家たちから絶賛され、アカデミー賞の脚本賞を受賞した。さらに、人工知能の声を演じたスカーレット・ヨハンソンは史上初、声だけの演技でローマ国際映画祭の最優秀女優賞を受賞したのである。

鈴木敏夫プロデューサーは「僕は今忙しくて、こんなとこに来ちゃいけないんですよ。今は『思い出のマーニー』を作ってるところですから。でも今回は僕の大好きなスパイク・ジョーンズ監督と会えるということで来ました」とちゃっかり新作の宣伝をしながらコメント。「スパイク監督の感性が好きだけど、ただ作品数が少ないんだよね。十何年で長編映画4本でしょ。もっと作ってください」とリクエストも。監督は「仕事が遅くて。ひとつ映画を作るのに時間がかかることくらい鈴木さんもわかってるでしょう」と笑いながら話していた。

鈴木が「スパイク監督の描く主人公は、一貫して常にうだつがあがらない感じ。でも狂気的なところもある。どうしてああいう主人公が多いのか?」と質問すると、スパイク監督は「そういうタイプのキャラクターに共感するからかも。自分も模索しながら生きているし、色々人生はどんどん変わっていくなかで悩んだりするし、人生はミステリーだから。『千と千尋の神隠し』でも、普通の女の子が全然違う世界に迷い込むところが似ている」とコメント。スパイク監督もスタジオジブリの映画の大ファンだと言っていた。

鈴木は「人間がコンピューターに恋をすることが本当にできるのかと疑いながら見ていたけど、それがちゃんと成立してるから凄い」と本作を絶賛した。本作は、一人の男性が人工知能の女性に恋をするラブ・ストーリーということだが、相手はまったく姿を見せないわけで、あとは、スパイク・ジョーンズのストーリーと演出力、主演のホアキン・フェニックスの演技と、人工知能サマンサの声だけにかかっているわけだが、この映画ではそんな無茶なことをちゃんと形にしている。不可能を可能にしたわけで、観客も気がついたら人工知能のサマンサに恋をしているという。

イベントの後、映画を見終わった人たちが「今年見た中で一番良かった」と話しているのが聞こえた。いかにしてスパイク監督がその仕事をなし得たのか、いかにしてそれをリアルに説得力を持ってみせることができたのか、これは鈴木プロデューサーのように疑いの目を持って作品を実際に確かめてみたいものである。

『her/世界でひとつの彼女』は、6月28日(土)から新宿ピカデリーほかにて公開。(取材・澤田英繁)

2014年6月2日 00時33分

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