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ポン・ジュノ監督「大人の映画塾」レポート

5月27日(火)、文京区にて「大人の映画塾 ポン・ジュノ監督が明かす創作の秘密〜なぜ作家性を保ちながら大ヒット映画を作りだせたのか〜」と題した講演イベントが行われ、韓国の巨匠ポン・ジュノ監督が登壇し、映画創作の裏側について語った。

ポン・ジュノ監督は『殺人の追憶』、『グエムル-漢江の怪物-』などが韓国で大ヒット。韓国では最も有名な監督の一人だが、日本でも「キネマ旬報」誌などで高く評価されており、批評家や映画ライターの間でもクリント・イーストウッドなどと並び極めて人気の高い監督の一人である。

イベントの冒頭では、手書きによる『スター・ウォーズ』のパラパラ漫画がスクリーンに映し出された。このパラパラ漫画はポン監督が中学のときにノートに描いたものである。これがポン監督の映画の原点だった。ここから講演はスタートし、これまでポン監督が作った作品の製作のきっかけについてポン監督自身が半分冗談を交えながら語った。途中でメイキングの上映やポン監督の短編映画の上映があったり、香川照之のメッセージが読み上げられたり、第二部ではマイケル・アリアス監督が登壇して『スノーピアサー』と『鉄コン筋クリート』について語り合ったり、盛りだくさんの内容で、2時間半に及ぶ講演(ファンミーティング)であった。

Q&Aのコーナーでは、女性客から韓国語で「なぜ映画を撮ってるんですか?」という質問があった。これに対し、ポン監督は「女性に例えるなら、抱きしめてもするりと逃げてしまう女性を抱きしめたい思いで撮っています」と答えていた。

また、同日韓国で行われていた百想芸術大賞の授賞式で、ポン監督が『スノーピアサー』で最優秀監督賞を受賞したというニュースも発表された。ポン監督は本国で大切なときに、ちょうど日本で講演をしていたことになる。ポン監督は「賞金はないという悲しいお知らせを聞きました(会場笑)。『スノーピアサー』は好きという人と嫌いという人がいて議論の対象になっていたので、賞を取ったのは嬉しいです」と受賞の喜びを韓国メディアよりも一足先に日本のファンの前で語ったのだった。

以下に、各作品についての監督のコメントを抜粋する。

『殺人の追憶』

「実話をもとに、リアリティのある韓国的な犯罪映画を作りたいと思っていました。ハリウッド式のスリラーは撮りたくなかったです。映画を作る上で一番考えたのは、自分の視点をいかにもつかということです。この事件は今も未解決ですが、事件をリサーチしてシナリオを書いているうちに、犯人に会いたいと思いました。犯人のことをずっと考えていて、夢にも出て来たくらいです。会ったときに質問するために質問リストを持ち歩いていました。今村昌平監督の『復習するは我にあり』や黒沢清監督の『CURE』など、日本映画を見ながらインスピレーションを得ていました」

『グエムル-漢江の怪物-』

「日本には『ゴジラ』があり、アメリカには『エイリアン』がありますが、韓国にはないので、こういった企画は危険が伴うと思われて反対されました。こんなのに時間を浪費するのはやめろと言われました。この企画は『殺人の追憶』が成功したから撮ることになったわけではないんですね。『ほえる犬は噛まない』は失敗しましたが、プロデューサーは好きだと言ってくれて、私が『グエムル』の構想を話して、Photoshopで漢江に怪物が出てる画像を見せて企画を見せたら10秒でやろうということになりました。日本でハピネットが出資してくれて、トントン拍子で実現していきました。逆にこういう映画が簡単に撮れるのかと心配になりました。『20のアイデンティティ/異共』はロングテイクの極限に挑戦していますが、『グエムル』のために漢江で撮るのをテストしたかったという理由もあったのです」

『シェイキング東京』

「『殺人の追憶』が日本で公開されたあと、日本で映画を作って欲しいと声をかけられたことがありましたが、たやすくチャレンジできるものではないと思っていました。黒澤明監督の『天国と地獄』のリメイクの話もあったのですが、光栄でしたが、3秒でそんなことはやってはならないと思いました。ガス・ヴァン・サントが『サイコ』をリメイクしたとき、何を考えているんだと思ったのですが、原作へのオマージュで撮影のメカニズムを探求するために撮ったという話をしていたので、それならばやってもいいとは思うのですが、監督の立場としてはなかなかできないものです。そういうときに、現代の東京を舞台に作れる作品の話がありまして短編でしたので、日本の俳優の皆さんと撮ってみたいという好奇心があったので、これはひとつのチャンスだなと思って飛びつきました」

『母なる証明』

「この映画は2004年にさかのぼります。キム・ヘジャさんは韓国の樹木希林さんみたいな人です。子供の頃からキム・ヘジャさんが好きで、映画を撮りたいとずっと思っていました。それが出発でした。まだ『グエムル』を撮る前でしたが、脚本もキム・ヘジャさんにインスパイアされて書いたので、これはキム・ヘジャさんで撮らなければ意味がないと思っていました。優しい母を象徴する女優でしたが、『母なる証明』では全く逆で暗く狂気のイメージだということを伝えたら、”私も体に血をつけてみたかったの”と喜んで出演してくれました」

『スノーピアサー』

「SFを作ることがいかに大変であるかを経験しました。遠い未来の話という背景にあって、あくまで人間臭い物語をその中に表現したいと思いました。自分だったらどの車両に乗っているだろう。自分だったらあの状況で前に進んで行くだろうかということを、SF映画でありながら、自分自身を置き換えてできるような作品にしたいという欲があって作りました」



映画業界人にもポン・ジュノ監督をリスペクトする人は多く、この日も客席には、行定勲監督(『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』)、李相日監督(『許されざる者』)、西川美和監督(『夢売るふたり』)、竹中直人監督(『山形スクリーム』)、川村元気プロデューサー(『青天の霹靂』)、俳優の村上淳(『オー!ファーザー』)らの姿があった。

以下に、ポン・ジュノ監督をリスペクトする人たちのコメントを掲載する。

香川照之のコメント

「ポン・ジュノのテストをせずにいきなり本番に臨み、役者のまだ摘み取られていないみずみずしい初動をじっくり見、そこからあらゆるコーチングをして、静から動、細部から全部までのすべての心の作用を役者に流出させるその先導能力がまず特出している。意外性も十分使う。役者にのみ意外性のある動きをして欲しい。それをスタッフには伝えずに本番に入ることでスタッフ側にもショックを与えて新鮮さを常に意識する。現場では何が起こるかわからないので常に全員が身構える。どのカットにもあらゆるパートに負荷がかかっている。その重み、ただの重みではない。アカデミックに昇華し、洗練され、軽量化されて、ピアノ線のごとく不可視化された重みこそが他の監督には見られない役者・スタッフへのプレゼントである。監督、またぜひディテールにこだわり、それを巨大化し、ダイナミックにまた打ち砕いて細分化する、そんな素晴らしい現場に私を招待してください」

マイケル・アリアス監督のコメント

「ポン監督の映画は全部味が違うんですけど、『スノーピアサー』の話をすると、最近はかっこいい映画が多すぎてクールなものばかりなんですけど、『スノーピアサー』はSFアクションとはいえ、非常にユーモアがきいていたり、エキセントリックなキャスト、オクタヴィア・スペンサーとかジョン・ハートとか、今ある現実の延長線にあるようなSFではなくて、半分ファンタシーのようなパラレルワールド的な作った感じがして。それがあまり説明なく描かれるのがとても好きで。多分かっこよすぎない感じ。ポン監督の色んな映画を見てると、ちょっとした土臭い感じが共通なのかな。アクションでもあるし、SFでもあるんだけど、とても人間臭い、温かい感じがします」

李相日監督のコメント

「ポン・ジュノ監督の映画には、普通に頭に考えてもそれをビジュアルという形で具体するのが難しいことを、"こんな風に形にしちゃうだ"っていうところがちょいちょいあるんですね。ただクールでかっこいいんじゃなくて、"ああ、なんか人ってこんな瞬間あるよな"っていう。自分が誰にも見られてない瞬間をちゃんとキャッチしてるっていう。人をどれだけ注意深く見てるんだろ。不気味だなっていう。それがなんか面白いな。ただストーリーを追いかけるところじゃなくて、"やっぱ違うな"っていうことが随所にある映画ばっかりですよね」

西川美和監督のコメント

「ポン・ジュノ監督のすごいところ? 一言では言えないけど。ありきたりな意見ですけど、しっかり人間を描けていることではないかと思いますね。人間の暗部も、可愛らしいところも、愛おしいところもひっくるめて、深く潜りつつ、このイベントの趣旨もそうでしたけど、多くのお客さんに届くような話法・見せ方を徹底的に細かく追求されながら、そのバランスを取りながら作っていかれるところだと思いますよ。きっとその文学的と言われるような潜り方をしているんだけれど、それをアートであるとか、狭いところに行かずに広く伝えていく話法を探り続けてられているところだと思います」

行定勲監督のコメント

「とにかくそのディテールと、映像に対する執着というのが感じられるところと、本人は穏やかな感じがするけど、物凄く変人なのね。変人ぶりが映画に反映されているというか。そこがやっぱり一筋縄ではいかないということを信条にしているというよりも必然的にそうなっていくという。それを見せられる感じというのは展開が予想付かないよね。それはやっぱり器用な監督というか。ああいう人がオリジナルで新しいもの、今までにないような解釈とか、今までにない人間に対する、感情に対する解釈というのを作り上げるというところがすごいね。ああいう人がいると、自分は温故知新というか、あったものをきっちり丁寧にやろうという風に思わせてくれる存在というかね(笑)。すごい監督だと思います」

日本の監督たち
李相日監督、行定勲監督、西川美和監督

2014年6月2日 03時27分

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