『サケボム』サキノジュンヤ監督。白人中心の視点で描かれるハリウッド映画に疑問符
5月12日(月)、デジタルハリウッド大学にて、『サケボム』の特別上映が行われ、サキノジュンヤ監督、妹尾浩充プロデューサー、同大学の矢野浩二教授による特別講座が行われた。
『サケボム』は、日米合作映画。日本人の青年ナオトとアジア系アメリカ人のセバスチャンの二人の旅を描くロードムービーで、主演の濱田岳が、ほぼ全編を英語のセリフで演じている。
本作で映画デビューを飾るサキノ監督は、現在ロサンゼルスを拠点に活動中だ。サキノ監督がアメリカに渡り、なぜ『サケボム』を作るに至ったのか、詳しく話してくれた。
「高校の頃にユニバーサル・スタジオに行って、トラムツアーで実際に撮影しているところを見て感動したことが原点でした。そこから留学してアメリカに行きました。最初は英語がまったく話せませんでした。マクドナルドでハンバーガーを注文したらチキンナゲットが4つ出て来たこともあります。その程度の英語力でした。実際にロサンゼルスに行くと、こんなにもアジア人がいるんだと思いました。ハリウッド映画というものは白人中心の視点で描かれていますが、ロサンゼルスには様々の人種がいます。向こうでアジア人と友達になって、あるとき寿司屋でサケボムを見たんですね。酒とビールを混ぜて飲むのを見てショッキングでした。そこからアジア系アメリカ人のストーリーを書き始めました。面白いテーマが見えてきました。
日本人は高いレベルの文化を持っているけど、発達し過ぎていて鎖国感があります。だから『ロスト・イン・トランスレーション』のような映画が生まれたのだと思います。
この映画の主人公も日系人として色々思うことがあります。結構きわどくて、アジア人の人種差別に対する批判は白人にとって面白くない話で、センシティブな問題がありますが、これが脚本賞をいただいたのも人種差別について代弁したというのが強かったと思います。言葉を普通に言うと叩かれますから、アジア人として逆の発想をして、すべてのアジアのジョークを入れました。びっくりするくらいアジアのジョークを入れています。そこがアメリカでも受けた理由だと思います。アジア系の作品がメジャーに出ることはないので、そこを茶化しました。
ハリウッドには世界中から意識の高い人たちが集まって来ます。映画を作る環境が整っていて、予算が無くても工夫をすれば作品ができます。なかなか日米合作の低予算映画はないと思います。この時代、インディペンデントは厳しいですが、運良くやっていけています」
SNSに向けて人種問題について毒舌で語るセバスチャンと、元カノを追いかける純情な青年の凸凹コンビのやりとりが面白い本作。アジア系アメリカ人に対する様々のギャグに彩られたこの作品は、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で絶賛された。本作をプロデュースした妹尾氏は、「旅を通して何かを見つけるのが丁寧に描かれている作品です。英語の映画というのもでかかったと思います」とコメント。イギリスなど他国での公開も決まり、オーストラリアなどではネット配信も決定している。日本では5月24日(土)から新宿シネマカリテほかで全国順次公開される。