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長谷川和彦監督が35年間新作を撮っていない理由とは

3月21日、『青春の殺人者』のHDニューマスター版ブルーレイ&DVD発売記念特別上映イベントがオーディトリウム渋谷で行われ、長谷川和彦監督と、小説家の樋口毅宏氏、映画評論家の樋口尚文氏が登壇してトークイベントが行われた。

長谷川和彦監督は、1976年に『青春の殺人者』で衝撃のデビューを飾り、1979年に『太陽を盗んだ男』を監督。樋口尚文氏が「日本映画がどん底なときに現れた直下型地震だった。すごく揺れている作品」と当時を振り返っていたように、日本映画界におけるその影響力は計り知れないものがあったが、『太陽を盗んだ男』を最後にその後35年間も新作を撮っていない。3作目を熱望するファンは多く、この日は監督の忌憚のない裏話が聞けるとあって、多くのファンが集まり、客席は満席になった。

『青春の殺人者』で、今見ても最も衝撃を受けるのは、原田美枝子さんのヌードシーンだろう。なぜなら原田さんはまだこのとき17歳だったのだから。樋口毅宏氏は「10代・20代・30代・40代で脱いでいるのは原田さんだけ。犯罪級の艶さ。これは両親殺しちゃう」と絶賛した。

長谷川監督は原田さんのことについて、「幼い顔で可愛い子なのに、胸がボインで揺れてるんだな。このアンバランスが魅力に感じたわけだ。30歳の俺、24歳の(水谷)豊、17歳の美枝子で作るのが自然だと思った。今でこそ美枝子は情緒安定しているけど、あのときはハイのときとダウンのときの差が激しかった。ある日はいっさい声を出さなかった。声を出してみようねって言ってもその晩は仕事ができなかった。38年も前だったからチェックもしようもないが、バージンだったと思うな(会場笑)。聞くまでもなくそうだったと思うよ。ある意味一番不安定だったと思う。裸を仕事といいながら女優としてやってるんだから。以前美枝子と俺とでトークショーをやったことがあったけど、美枝子は映画を見たことがないって言ってて、よっぽど嫌いなのかと傷ついたけど、そういう年の美枝子の女の子のありようは不思議で、それが映画にも出てると思うな」とコメントしていた。

この映画は、千葉で実際に起きた親殺しの事件がベースになっていて、長谷川監督も映画化するにあたって、色々とリサーチしたという。「千葉に通い始めた。被告の彼女と会ったんだが、すごく良い子だった。獄中からの被告の手紙を見せてくれたりした。実際にはお姉さんがいるんだけれど、意図的に一人っ子という設定にした。映画でお姉さんがいたらずいぶん違う映画になっただろうな。死刑が確定したときはショックだった。裁判官もほうらねという感じで映画を見ていたんじゃないかと思う。俺の映画が原因で死刑になったみたいな気がしてつらかった。両親を海に投げ捨てるシーンも、あんなところで捨てるはずがないと思うかもしれないが、事実は小説よりも奇なりで、実際に捨てた場所で撮ったんだから。彼は実際に映画を撮っていて、8ミリ映画も借りたんだ。彼は40年刑務所に入っているけど、ずっと無罪を主張している。誰かをかばおうとしているようにも思われる。彼のえん罪をはらそうというポジションで見ていたわけじゃないから。だからこのことを聞かれたくないからマスコミの取材からは逃げていたな」と語っていた。

『青春の殺人者』は、役者の演技も素晴らしいが、映像についても今見てもうなるものがある。長谷川監督も「今見ても映像はよくできていると思う。"やるじゃんこのカメラ"という感じ。既成のカット割りをしなかったのが良かった。たくさん撮ったからな。たくさん撮ることはバカだと後で知ったけど、たくさん色んなことを撮ることを怖がらなかったことがよかったと思う」とコメント、さらに「あとで『地獄の逃避行』を見て思ったんだけど、先にこれを見ていたら余計なことを考えていじくったかもしれない。『地獄の逃避行』よりも俺の方が内向的だ」とコメントしていた。

樋口毅宏氏は「『地獄の逃避行』のテレンス・マリック監督と、長谷川監督は、影響力の強さでは似ている。テレンス・マリックも長いブランクを置いているし、長谷川監督も長いブランクを置いている。テレンス・マリックは『シン・レッド・ライン』を撮ってその後も映画を撮っているけど、長谷川監督は撮ってないですね。休日は何をしてるんですか?」と活動休止中の長谷川監督を皮肉っていたが、長谷川監督は「やめろよバカ。お前が映画になる本を書けばいいんだよ。俺はやめたと思ってるわけではないんだ。半年後にはクラインクインする気持ちは今も変わらないんだ」と反論した。

以前、長谷川監督は連合赤軍の映画を作る計画があったという。「連合赤軍も取材を重ねて、10時間くらいの構想もできあがっていた。あさま山荘も6300万のところを3800万に値切って買い取ったくらい。でも早撮りの若松監督に先を越された。俺はソ連の崩壊でエアが抜けたな。俺はノンポリだったけど、共産社会がなくなるのは何だいって。こういう話をすると暗くなるな。次!」と語った他、『家畜人ヤプー』を監督する話が確かにあったことも明かした。「ただでさえ仕事がないのに、年上の人でも仲良くなろうと思って"ちゃん"づけで呼ぼうとする性格がさらに仕事をなくしているのだと思う」と自虐的なコメントも。

樋口尚文氏は、そんな長谷川監督について「欲張りすぎで、いつも150点の映画を撮ろうとしているから新作ができない」と分析。「監督には失敗作を作って欲しい。今までの作品がすごすぎた。積極的に作品を作って、みんなをがっかりさせてから次を作って欲しい」と願っていたが、長谷川監督は「俺は本当に撮りたいのしか撮りたくないんだろうな。スポンサーがついて自分が撮りたいものがないんだ。具体的な道を教えてちょ!」と答えていた。

最後に「まだまだ喋り足りないからな。もっと話を聞きたい奴、俺に質問したい奴はあとで下の喫茶店で集合な!」と言って出て行った長谷川監督。実に90分にも及ぶトークイベントはこうして幕を下ろした。

2014年3月24日 13時34分

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