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『魔女の宅急便』清水崇監督インタビュー

『魔女の宅急便』
清水崇監督 単独インタビュー

角野栄子のファンタジー児童文学『魔女の宅急便』が実写映画化された(現在公開中)。この作品の監督を務めたのは、今までホラー映画を撮り続けてきた清水崇監督だ。ハリウッドでも映画製作実績があり、『THE JUON/呪怨』は全米ナンバー1ヒットを飛ばした。なぜここに来て『魔女の宅急便』なのか。清水監督が本作にかける思いについて語ってくれた。

--今回監督を引き受けたきっかけは何だったのですか?

プロデューサーに内密で呼び出されて、もう4・5年前なんですけど、「『魔女の宅急便』って知ってますか」って、「もちろん知ってますよ。ジブリの。本も読んでますし」って言ったら、「あれを映画にしようと思うんですけど、どう思います?」って言われて、なんでその話を俺にしてるんだろうって思いましたね。「いや、ひょっとしたら監督は清水さんが合うかなと思って」って言われて、「どこで思ったんですか」と聞きましたけど、でも「やりたいですね」って即答しました。無謀なチャレンジをする人が好きなんですよ。僕にとってそれは新しいものになると思いましたし、ずっとホラー続きだったから他の世界観もやってみたいと思っていたので。自分がホラー専門みたいなイメージになっているのは自分としては違和感があったので、逆に嬉しいなとも思いましたし。とはいえ、『魔女の宅急便』かぁって。まずアニメも原作も有名すぎるんで、誰が監督しても先入観を持たれるし比べられるじゃないですか。原作はまだ挿絵と文字なので、読んだ人の想像でいけるんですけど、一回映画になってますからね。しかも有名な宮崎監督の手で。どうなるんだろうとは思いましたけど。そこからずっと連絡もなかったんで、他の監督に移ったか?企画が崩れたか?と思ってましたけど、突然また連絡が来て、「いよいよ動き出すから」って言われて、「いやいやいや、今ロサンゼルスにいるんで、すぐは無理ですよ」って話をして、そこから半年以上かかりましたね。待たしちゃいけないと思ったんですけど、「いや、待ちます」って言ってくださったので。

--どこからどこまでが原作のもので、どこからどこまでがアニメのもので、どこからどこまでが映画オリジナルのものなんですか?

この質問自体、原作や原作者に対して少し失礼と感じますが…宮崎さんのアニメの方が原作から離れたオリジナル部分は多いと思います。もちろん、僕も最初のころは世界観とか…原作やアニメに引っ張られがちでしたけど、例えば、実写(日本映画)となると、アニメ映画のようにスウェーデンの町並みで日本語しか喋らない人が出てくるだけで絶対違和感を感じてしまうし。最初は海外ロケも考えていたんですけど、予算的なことや実は国家間での政治的な問題も生じてきて…。まず「東洋で…」って原作:角野さんや企画者の希望から、キキやおソノさんが日本人ってだけで明らかに日本国外でやるのは無理を感じるんですよね。なので、憧れで無く“無さそうで在りそうなリアリティ”でいこうと。電信柱も全部消すのでなく、日本の瓦の屋根とかを生かした世界観にした方が無理ないなと思ったんです。ですから、相対的には原作にこっちの方が近いかもしれないですね。…とは言え、原作のエピソードを拝借しつつ、かなりいろいろ設定も内容も全然変えちゃってますけど。

--クレジットでは脚本が奥寺さんと清水さんの2人になっていますが。

最初は奥寺さんとプロデューサーの方で、原作から何をチョイスして作るかという脚本づくりをしていて、僕は最初タッチせずにいたんです。もともとホラーを色々撮っている頃から奥寺さんに一回書いて欲しいなと思っていたので、「奥寺さんと仕事してみたい」と話したら、プロデューサーが「実は既に奥寺さんに書いてもらおうと思ってオファーしてる」って、願ったり叶ったりでした。ちょうど僕はアメリカにいたんで、最初あがってきた本を送ってもらって、原作も全部送られて来て、読み返してみて、「うわあ、さすが奥寺さん…!」と感心させられたんですけど、やっぱり最初奥寺さんの脚本では現実というより童話テイストの児童文学ヨリだったんですね。奥寺さんは、あえてそう書いてくれたんですけど、僕はもっと現実的で生々しいリアリティを意識してたので、チラッと話したら、そこを全部修正してくれて、最終的には僕の方でも結構色々変えちゃいましたね…奥寺さん、すみません。挙句…奥寺さんが「これ連名でいきません?」と言われて、それで僕の名前も入ってるんです。僕の方で何度か部分的に直したのを送ってもらったり、奥寺さんにもう少し噛み砕いてもらったり、「ここをこうしたらいいんじゃない」とか繰り返し打ち合わせしつつやりました。

--ホウキを蹴って加速するのは原作のアイデアですか?

あれはオリジナルですね。現場に向けて絵コンテで描きました。特に飛ぶシーンとか、ジジをどうするか?とか…そういうところは全部絵コンテを描いたので。スタッフもそれがないとCG合成か?現場処理か?とか把握しきれないので準備は大変でしたね。で、なるべく現場で吊りたいですって話をして、無茶言って、狭いところでもクレーンを持ち込んで撮影しました。とは言え、海のど真ん中とか、CGや合成しか成立しない場面もあるんですけど、とにかくキキは新人になると思っていたので、生で風を感じつつ上空に飛んでる状態で他の俳優とお芝居する感覚に慣れて欲しいと望んでいたし、どうしてもその方が実際に表情や感覚がキキ(小芝)もスタッフも全然違うんです。

--ジジは全部CGでやってるんですか?

何カ所か実物の猫がいたり、あと、マペットの人形だったりしてるんですけど。部分的にしっぽだけや耳だけが動くとか。

--CGにして苦労したこととかありますか?

CGは全部大変でしたね(苦笑)。というのは、山崎監督のような方だったらご自分でできるからいいなって思うんですけど、僕のような勉強不足で機械音痴な奴には、監督のコントロールの範疇を超える狭間が生じてしまうので。もっとこうしてああしてと言っても、それをやるにはあと半年かかるとかやっぱり出てくるので。ある程度妥協しないと行けない部分もありますよね。とはいえ、かなり厳しい注文を出して追い込みはしたんですけど…すみません、僕のいいわけですね。

--アニメと実写の違いは何だと思いますか?

生々しさ…現実に根ざしたリアリティでしょうね。アニメ映画版では…特に宮崎監督のような方だと、アニメでしかできないことをきちんとやりつつも、実写の感覚に近づけていくことが本当に感心するほどうまいと思うんですよね。重さとか、ホウキを軸にした動きの重心の置き方とか。相当研究して絵を描かれていると思いますので。もちろん浮遊感の表現とか昔から素晴らしい方でしたけど、アニメ版で僕が一番感動したのは雨の日に飛び出してきたキキが石畳の濡れた葉っぱですべって転びかけながら走って行くシーン。あれは脱帽させられましたね。実写でも思いつかないというか、実際現場でそうなったらNGとかカットにしてしまいそうなところをあえて絵で描いて、そこにさえアニメならではのリアリティと浮遊感さえ感じさせ、すごく自然にできているので。実写は少しでもディフォルメすると否応無しに違和感を感じられてしまうので、それをどううまく武器にできるか?かと。特にCGに頼ってやるとバリバリ違和感だらけの世界観になってしまうし、特に漫画や小説の映画化だとそうですよね。ただ表情とか監督のコントロール通り理想通りには行かないところが僕は実写のいいところだと思っていて、特に今回キキの表情なんかも、やっぱその子の心境とか色んなもので変わるので、それをどう追い込んで行くか?とか気持ちを解放できるか?なので。そのとき起こった事象をつぶさに捉えるしかないので、その瞬間をどう生み出せるか?作るか?ってのが実写の楽しみです。

--インターネットで公開前から「大コケ必至」と叩かれていますが、そういう意見も読んでますか?

(笑)あまり読んでないかな。最近は忙しくて。準備中は気になってみたりはしてましたけど、まあいいんじゃないですかね。そう言いたい人は必ずいるんで。過去のものにしかとらわれられない人っているんで、書き込むだけで自分は何も挑戦できない。そういう人にこそ見て欲しいですけどね。今回もアニメの映画のイメージが強いし、原作も児童文学なので、親子向けとか、子供向けという感覚が大きいと思うんですけど、むしろ僕は大人にも見て欲しいなと思って取り組みました。大人はどうしても凝り固まり、過去に縛られて行くので、自分も含めてチャレンジ精神を失いがちですし。

--ハリウッドと日本の映画製作の違いは何ですか?

一言で言えるようなものじゃないんですけど、ハリウッドの方がビジネスライクに進められますよね。ショウビジネスとして成り立つシステムができているので。日本人からすると冷たいとか感じるところがあるんですけど、ただそれをきちっとやってこれてるからハリウッドは映画の都をここまで維持できてるんだろうなと思います。日本人同士だと撮影がおして時間が遅くまでかかったりしても「みんなでがんばればなんとかなる。お願いします」で進めたり、場所の交渉なんかも対人間のコミュニケーションで成り立ってたりすることがあって、僕はそれはすごくいいことだと思うんですね。ただそれで無茶をしすぎると、睡眠不足や過労のまま進めて事故が起こったり。昔はハリウッドもそうだったんですけど、きちんと組合が成り立って、怪我やなんかがなるべく起こらないようにとか、そういうことも含めて保障制度ができて、契約書が厚くなって、オーバータイムにはギャラがちゃんと発生するとか、システムとしてのモデルケースが出来てきてるなと思いますね。日本だったら低予算だからとか、新人だったら契約こんなんでいいだろうとか、ずぼらだとは思いますし…反面、日本人の決め事無くしても対人関係や信頼で成り立っているのは、すごく良い文化だと思うので、一長一短だなと思います。僕はどうしても日本で助監督とかやって慣れてるんで、日本人の信頼関係で成立する方が好きではあるんですけど。

--ハリウッドで作った方が名声が高い気がしますが。

現状、それはそうですが…ハリウッドという言葉の響きに負けちゃってる気がしますね。確かに向こうでは学生でもフィルムを湯水のように使ってきてたりするので、そういう若い監督やスタッフを育てる地盤もできてると思います。日本だとお金がない学生が仲間とかきあつめて作ってみましたという根性論から出て来れた人だけが注目されるという感じなんで。ただ、お金をかけたから良い作品ができるのかといったら、ハリウッド映画を見ても決してそうじゃないので、僕らはもっと自分達の歴史や文化を重んじねばな…と感じてます。

--清水監督にとって映画を作る上で一番大事な事は何ですか?

うわ、難しい。なんだろうな。監督の世界観でしょうか。大元のイメージや狙いを貫きつつ、現場で起こり得る事情や都合や変更をどう生かせるか?柔軟さを持てるか?といった事かもしれません。

--今までで影響を受けた作品は?

それはもう山ほどありますけど。最初に映画を作る事に興味を持ったのは『E.T.』だったんですけど、子供からしたら、パンフレットに映画に出て来ないおじさんがなぜ載ってるんだろうって、それがスピルバーグ監督で、「ああ、この人が作ったのか、すごい」と思って、そこから映画の背景には、それをを作る人がたくさんいるんだというのを意識しはじめて、ちょうど『E.T.』の主人公と同じ10歳くらいだった事もあって共感したんでしょうね。あとはスタンリー・キューブリック…僕は『バリー・リンドン』と『シャイニング』が好きですが、『2001年』なんか『グラビティ』見ても『2001年』を未だに撮れる人は他にいないと思うんですよね。すごいなあと思う。あと、クシシュトフ・キェシロフスキ監督です。実は『呪怨』なんかは、『デカローグ』に感銘を受けて、あの映画の構成に影響を受けています。最初は銀座で一日で見ました…10時間連続の上映で。『魔女の宅急便』ではジャン=ピエール・ジュネ監督の世界観とか…大好きな映画ばかりなので。グーチョキパン屋の壁紙とかクリスマスカラーにしたのはそんな影響ですね。

--今回ホラーの要素を取り入れたいとは思っていましたか?

特に入れようとしたわけでもなかったのですが、カラさんという歌手の家にキキが入って行く場面は自然とそうしたくなりましたね。ただ、あの辺はちょうど映画にとってもキキにとっても新たな展開になる感じが欲しいと思ってのことなので、偶発的な要素です。加筆しつつ、プロデューサーに「ここは多分子供は泣き出すかもです」って言ったら、プロデューサーがぶっとコーヒーを吹いて、「監督その辺はバランスとってくださいね」って言われました(笑)。もちろん、怖くて逃げ出してしまうシーンにしてはいけないと思って、バランスは考えましたが。

--サム・ライミとの交友は今も続いているのですか?

去年の年末に久々にロサンゼルスで会いました。サムも『オズ』の後でしたし、「実は僕も“Kiki's delivery service”の仕上げをやってるんだけど、知らないかな?」といったら、サムは「それって、多分うちの子は知ってると思う」と言ってました。「魔女ということは空を飛ぶんだろ? CGのカットはどのくらいあるんだ? 大変だろ」と言われて、「いやいや、あなたの『オズ』ほどきらびやかなファンタジーというわけではないんで」って話をしました。なんか似てるんですよね。彼もいたずら好きで、ホラーが好きなんですけど、ハロウィン的な捉え方をしているというか、ファンタジックに捉えているんで。『スパイダーマン』とか『オズ』とかやってても、どこかにコメディリリーフを持ち込もうとしたりとか。サムも「なんか清水もいたずら好きで、子供みたいに精神年齢が低いところが似てるんじゃないか」って知り合った頃、話をしました。またなんかやりたいとはお互いに言ってるんですけど、こっちが具体的に何かもちこまない限りは難しいのかな。サムが持ってるレーベルがホラー専門なので、ホラー以外の企画をこっちからしたことがあるんですけど、そこの会社ではできないから何か違う形ではできないかなという話はしてますけど。

--一番最初のシーンでトカゲが出て来たんですけど、理由があるんですか?

(笑)原作もそうで、アニメもそうなんですけど、魔女の血筋の家といいつつ、薬草だったり、植物だけだったりして、普通魔女のイメージって、もっとドロドロした部分もあるじゃないですか。『魔女の宅急便』というと有名になりすぎて、ほんわかした世界と皆さん捉えてますけど、もともと魔女は悪魔の手先だし、ちゃんとそこから入りたいというのがあって、角野先生に反対されつつ、ああいう景色の実家にしたり、トカゲの干物や動物の骨とか、魔法陣のレリーフとか持ち込みました。あのトカゲも「何でトカゲが必要なんだ?」って皆に言われたけど、「はい、これは必要です」って。「監督、雪が降ってる時にトカゲは出てこれないですよ」、「はい、それは勿論だけど要るんです」って(笑)。山間のキキの実家についてもイメージの絵を僕が描いて、原作者に反対されつつも、VFXチームには「もっと橋が欲しい」とか、「ランプを持った人が歩いて欲しい」とか指示して…。

(※記事は映画の公開前にインタビューしたものです。本文に清水監督が注釈などを加筆しています。)

『魔女の宅急便』は、3月1日(土)から全国ロードショー中。

2014年3月6日 21時23分

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