井口奈己監督『ニシノユキヒコの恋と冒険』製作秘話を語る
2月7日(金)、デジタルハリウッド大学(東京都千代田区)にて、『ニシノユキヒコの恋と冒険』の公開を記念して公開講座が行われ、井口奈己氏(監督・脚本・編集)と鈴木昭彦氏(撮影・効果・整音)が映画製作について語った。
井口監督は、この原作を映画化するとき、「まずは主演俳優を作ってから座組を作って行くことにした」と振り返った。そんなとき、2012年の7月に竹野内豊の名前があがり、井口監督は「最初はどこも映画会社がついてなかった。竹野内さんは、私たちが作るような少ない予算の規模のところであがってくる名前ではなかった。太平洋戦争の映画やテレビドラマの主役などに出て、大スターのイメージがあった」と有り得ないという様子だったが、まわりにいた女性たちから「いいね!」と好評で、竹野内豊の主演でやることが決定した。ルックスというよりも直感だったという。主演が決まってからは、映画会社もついてきて(東宝映像事業部)、2013年の5月ゴールデンウィーク明けから女性陣のキャスティングが開始された。クランクイン予定は2013年の7月。つまり、2ヶ月後に撮影する女優たちをこれから急いで見つけ出さなければならなかった。ド短期のため、ロケハンもやっている暇もなく、ざっくり場所を決めてそこに放り込まれて撮影するという、これは新しいチャレンジだったという。
結果的に、尾野真千子、成海璃子、木村文乃、本田翼、麻生久美子、阿川佐和子という錚々たる顔ぶれの美人女優たちが集まった。しかし、いざ撮影を開始しても、女優たちにはスケジュールの制約があった。女優たちは3日しか撮影期間がなく、雨が降ったら次の日にリスケするよう交渉することもできない。その辺の融通は利かないため、もし雨が降れば室内のシーンに脚本を書き直す必要があった。幸い、ちょうど梅雨が空け、撮影は順調に進んだという。
公開講座では、20分のメイキング映像が上映され、撮影の様子がどのようなものであったのかが伝えられた。井口組の特徴は、「はい、スタート」の声もなく、自然に撮影が始まっているというものだった。女優が「これでどうでしょうか?」と聞くと、井口監督が「それでお願いします」と答え、そのまま撮影に入っている様子などが映像で見られた。フィルムではなく、それはデジタルHD撮影ならではなの演出法と言えるものだった。それでも井口監督は最後までフィルムとデジタルどちらにするか迷ったという。
デジタルは、モニターで映像を確認することができる。井口監督は、最初はモニターを利用していたが、後半からはまったく見ないようにしたという。「モニターは小さく、モニターからは見えて来ないものがある。現場でのOK・NGがわからないし、芝居はカメラの横で見た方がよくわかる」と井口監督。また、モニターがあると必ず見てしまい、気が散るということ、そして、モニターがあると最前線(カメラの横)に行かせてもらえないデメリットがある。一方で、モニターは照明の感じがつかめるため照明部にとってはメリットがあるという。
原作を映画化する上でこだわったことについても話があった。井口監督は、「小説は映画用には書かれていない。私は原作を映画にするときには自由にふくまらせた。映画に必要なことは、行動(アクション)の部分。原作にあるところから、映画になりそうなところを引き出して骨組みを入れて行く。骨組みはセリフではなく、行動で組んで行く。私はフランソワ・トリュフォーのアントワーヌ・ドワネル・シリーズなど、昔の映画の構成を参考にした。昔の映画は真似ができない。真似をする余裕は無いというよりも、真似できる人はそうとう才能がある人。真似ではなく、いっぱい映画を見て、何かひらめきが出てくるのを待った。構成がしっかりしていれば、現場で何が起きても大丈夫。悲しいから悲しい表情をして欲しいとは思わない。悲しさは編集で表現できるものだから」と語っていた。(澤田)