ショートショートフィルムフェスティバル2013 アワードセレモニー レポート
6月9日(日)、明治神宮会館にて、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2013(SSFF&ASIA2013)のアワードセレモニーが行われ、各賞が発表された。今年のグランプリはガブリエル・ゴーシュ監督のイギリス映画『人間の尊厳』が選ばれ、ゴーシュ監督はトロフィーを受け取ると「チョーウレシイ」と日本語で喜びを語った。
別所哲也がこの映画祭を立ち上げてから今年で15年目になる。最初は小さな映画祭だったけれど、年々規模を拡大していき、その間に米国アカデミー賞公認の大きな映画祭に成長した。筆者がこのアワードセレモニーを取材するのは今年で5年目になる。筆者にとっては1年で最も楽しみにしているイベントのひとつなのだが、一ファンとして言わせてもらうと、今年のアワードセレモニーは例年よりも元気がなかったように思えた。むしろ今年は表参道で行われたオープニングセレモニーの方が盛り上がっていたと思う。来年のアワードセレモニーはもっと頑張ってもらいたいので、応援の意味を込めて率直に感想を書かせてもらう。
まず今年元気がなかった理由のひとつが、審査員に欠席者が目立ったことだ。毎年審査員を誰がやるのかがこの映画祭の楽しみのひとつである。いつも若い女優が必ず審査員の中に一人くらいいるわけで、今年は成海璃子が審査員を務めていることが話題になっている。それは良かったのだが、他の部門の審査員に2人も欠席者がいたのは残念でならない。1人の欠席でもかなり目立つのに、2人も欠席してしまうと、かなり寂しい状態になる。
原田眞人監督は審査中にジャパン部門のレベルが総じて低いことについて行定勲監督にも相談したと言っていたけど、行定勲監督は過去この映画祭の審査員を務めたとき「該当作なし」という厳しい結論を下し、結果としてその判断が映画祭の格式を高めたと思うが、今年の審査員は全体的に優しすぎる気がした。宝田明は「たくさん映画を見て大変だった。来年も審査員をお願いされたら断ろうと思う」とジョークでコメントしていて、もちろんキャラとしては面白いからこれもありだけど、筆者個人的にはもう少し威厳のあるコメントを聞きたかったように思う。
筆者は世界の監督たちの前の席に座っていたのだが、イベント直前のスポンサーのCMで、SMAPが「世界の国からこんにちは」を歌うUULAのCMが流れたところで、監督たちが「こんにちは!」を合唱してすごい盛り上がりを見せていたから、これはイベントも期待できると思ったのだが、今年は受賞者の発表が非常に淡白だったので、「さあ勝利は誰の手に?」的な、アワードセレモニー特有の緊張感と感動に欠けており、監督たちも「どうなってるんだ?」みたいに戸惑っていてどこで拍手し、どこで感動したらいいのか、いまいちわからなかったようだ。その様子が筆者の背中にも伝わってきた。例年なら、名前が呼ばれた瞬間に喜びと感動があり、監督が立ち上がってステージまで歩く間、大きな拍手があるものだが、今年は気がつけばもう受賞者が発表されていた感じだ。今年はあらかじめ受賞作品が何であるかマスコミにも知らせてあり、取材している方も戸惑ってしまった(いつもなら発表するまでマスコミにも受賞作品は一切知らされていない)。
コンペティション部門で上映された作品は80作品というけど、どういった作品があったのか、受賞作品以外まったくわからなかった(公式サイトを見ればわかるけど)。監督全員をステージに立たせたのは良いことだけど、せっかく海外からわざわざ来ているのだから、例年のように自分の名前が呼ばれるかもしれないという一時の緊張感くらい監督たちに与えてもよかったと思う。
進行にも少し問題があったと思う。今年考えられた新しい企画として、過去15年間のコンペティション優秀賞受賞者などの中から東京をテーマにしたショートフィルムを作ってもらうことを発表していたが、受賞者にいきなり「東京でどういう映画を作ろうと思っていますか?」という無茶な質問をしていた。受賞者はそんなことは何も聞いてなかったようで、しばらく通訳に説明してもらってから「昨日東京に来たばかりで何もわかりません。ちょっと考える時間をください」と答えていた。そりゃそうだ。
この中で、気を吐いていたのがネスレの高岡社長である。だいぶ昔に、ネスレのブライトのCMに別所哲也が出演したことが縁で、ネスレアミューズとショートショートのコラボが去年から始動した。今年は高岡社長が直々にステージに立って挨拶したのだが、ネスレアミューズで優れた作品を撮った監督には、賞金を送ることに加えて、製作費から何まですべてネスレ持ちで新作映画を作らせるという。完成した作品はYouTubeで無料で見られるようにするそうで、いきなり思い切ったことを発表してかなり大胆な社長であった。別所も「いいんですか。そこまで言って」と驚いていたが、社長としては、それが結果的にネスレの利益になると考えてのことだろう。
15周年ということで、ちょっといつもとは趣向を変えてみたのだろうか、上映作品をくじ引きで決める試みもあったが、進行が遅れる上に、くじで選ばれなかった作品の中に何かもっと良い映画があったかもしれないと、何だかもったいない気持ちになったので、くじよりは事前に決められていた方がいいと思った。最後にくじ引きで選ばれた作品「WEIRDO(ウィアードー)」は傑作で、頭からトナカイの角が生えた男性が、最初は回りから変人扱いされていたが、世間でトナカイの角のかぶり物が流行ると誰からも変人扱いされなくなるという話だった。
アワードセレモニーの最後には、別所哲也がすごくいいことを言っていた。最後に別所はトナカイのかぶりものをして登場した。先ほどの「WEIRDO」を引用して、「私が最初にショートショートフィルムフェスティバルを始めたときには、短編映画なんて誰が見るんだ? そんなのでうまくいくのかと、みんなが私のことを変人扱いしました。これからは、皆さんが角をかぶる番です」とコメントしていたが、素晴らしいコメントだと思う。最初に15年の映画祭の歴史をフラッシュバックする映像が上映されたが、もともとは小さな映画祭からスタートしてここまで来たことを思うと、何やら感慨深いものがあった。今となっては世界中が注目するアジア最大級の短編映画祭である。アワードセレモニーはその一角にすぎない。表参道・横浜・六本木・スカイツリーなど各地にイベント会場を置いて短編の上映からワークショップなど様々な取り組みを行っている。短編だけでここまで取り組めるのは本当にすごいこと。尊敬に値することである。別所は謙遜しながら「老舗は100年経ってから初めて老舗になるといいます。15年はまだまだ未熟です」と言い、未来に向けてさらなる発展を続けて行くことを期待させた。
ショートショートフィルムフェスティバル2013は、6月16日(日)まで開催中。各受賞作品は、6月19日(水)から7月15日(月)までの期間、同映画祭と連動したショートフィルム専門映画館「ブリリア ショート ショートシアター」(横浜・みなとみらい)にて上映予定。また、ショートフィルムを無料で視聴できるWeb上の映画館「ネスレアミューズ オウチ映画館」でも公開予定。(澤田英繁)
<ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2013 受賞者>
グランプリ『人間の尊厳』(ガブリエル・ゴーシュ監督)
インターナショナル部門優秀賞『人間の尊厳』(ガブリエル・ゴーシュ監督)
アジア インターナショナル部門優秀賞/東京都知事賞『私の街』(ティナ・パクラバン監督)
ジャパン部門優秀賞/東京都知事賞『寿』(田中希美絵監督)
地球を救え!部門優秀賞(環境大臣賞)『糸を紡いで』(メグナ・グプタ監督)
J-WAVEアワード『糸を紡いで』(メグナ・グプタ監督)
CGアニメーション部門優秀賞 supported by デジタルハリウッド『夏と冬の間に』(オード・ダンセット、カルロス・デ・カルバーリョ監督)
ミュージックShort部門 UULAアワード『ハヌル』(門馬直人監督/楽曲MAY'S「SKY」)