惚れ惚れするようなギャグ・センス 『鍵泥棒のメソッド』 これぞ内田けんじワールド
8月1日(水)、千代田区のホールにて『鍵泥棒のメソッド』の完成披露試写会が行われ、出演者の堺雅人(38)、香川照之(46)、広末涼子(32)、森口瑤子(46)、監督・脚本の内田けんじ、そして本作のために初めて映画主題歌を書き下ろした吉井和哉(45)が舞台挨拶を行った。
内田けんじと言えば『アフタースクール』を作った人である。まだ手がけた作品数こそ少ないけれど、『アフタースクール』で確固たる評価を得ており、この日の舞台挨拶では、もはや「内田けんじ」がひとつの映画ブランドになったことを実感させる舞台挨拶であった。
まずは登壇者から一言ずつ挨拶するところで、いつも長々と真面目に挨拶してくれるあの堺雅人が「この映画、ほんっとに!面白いです!」とただその一言で終わったのが意外である。次の香川照之が拍子抜けしてしまうほど短いコメントだったが、その熱い一言に、本作を本当に心から愛している様子がうかがえた。広末も森口も堺にならって「ほんっと!面白いです!」とコメント。他に語るよりもまずは面白いということを言いたくて言いたくてたまらない。一映画ファンが友達に「この映画すごいから」と薦めるような気持ちで語ってくれた。心から面白いと思っていなければできないコメントである。
『鍵泥棒のメソッド』は、冴えない35才の貧乏役者(堺雅人)が、ひょんなことから記憶を失った伝説の殺し屋(香川照之)と入れ替わるコメディ。堺、広末、森口が「ほんっと面白い」と言ったように、ギャグのひとつひとつが「巧」の一文字で表現したくなる見事さ。笑いながらも、その作り手側のギャグのセンスには思わず惚れ惚れしてしまう。香川は内田監督について「面白い本はアドリブを出さない方が面白い。今回も100%脚本に忠実に言ってます。テニヲハまで忠実に言っています。テニヲハひとつを崩すと全部が崩れるくらい内田監督は脚本で積み重ねあげられているので、それをこちら側で自分の中で崩すということは絶対にいけないというのはわかるので、アドリブもなく本当にそのまんまやりました。これが内田さんの世界観、それを堪能できると思います」、さらに「内田監督の映画に出ることは俳優にとってこんなに幸せだということを実感した思いです」とまで語っている。
内田監督が言うには「広末さんには笑顔を封印してもらった。女性的な可愛らしさが出ていた場合にはNGにしていた」とのことだが、それでいて劇中の広末のこの何というキュンキュン来る愛くるしさ。「僕毎年広末さんを追いかけまくってる役ばかり来るんですよね。3年連続で来てるかな。今回はだいぶ広末さんに近づきます。本当にいい恋愛映画。これだけ恋愛映画の側面がある喜劇だとは思わなかった」と香川。こういう恋愛もいいなと時々うらやましくもなる純愛が描かれ、ラブロマンス映画としても必見である。
吉田和哉が映画主題歌を手がけるのはこれが初。もともと内田監督は大の吉田和哉ファンだという。吉田は「台本を見せていただいて、日々の人生のテーマとうまくすりあったらいいなと思いまして作りました。なんか随所に内田監督がすごく音楽が好きなところが出ていて、とくにロックが、僕らなんか結構そういうところで甘いんだよなとか思いながらみてるんですが、内田監督は非常に細かく、ツッコミどころがない状態でやられていたのが感動しました。そういう本当に細かい点が集まって素晴らしい映画になっています」と監督を絶賛していた。内田監督は「吉井さんの新曲を誰よりも早く聴けただけでも嬉しかった。コメディにこういうかっこいい曲がかかるのは素晴らしいと思いました」とコメントしていた。
最後に香川は「後半の方、僕と堺さんと2人で、このワンカットを撮るために積み上げてきたという、この映画の骨になる長いワンカットがあるんですけど、このワンカットでOKが出たときにはこの映画が成功するだろうという確信があって、僕はその映画の中で堺さんの芝居を見て完全に吹いてます。引きの絵なのであまりよくわかりませんが、そこで吹いたら終わりなので、もちろんプロの俳優としてごまかしてますが、完全にぷっと吹いてるんですけど、こらえて次のセリフを言ってます。じっくりそこも楽しんで見てください」とここだという見どころをズバリ紹介していたが、編集一切無し、タイトルの意味がやっとわかる、まさに圧巻といえる笑いのビッグウェーブがここに待ち受けている。9/15公開。(澤田英繁)