ショートショート 今年のグランプリは日本人女性
6月24日(日)、明治神宮で行われた「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2012」のアワードセレモニーに行って来た。14年前に産声をあげ、同映画祭の授賞式が東京で開催されるようになってから今年で9年目となる。筆者がこの授賞式を取材するのは今年で4年目になるが、毎回この取材が終わったときには、何か良いものをみたような、大きな感動をもらって帰るのである。
筆者にとっては、ショートショートは梅雨の風物詩。毎年梅雨にセレモニーがあるので、いつも決まり切ったように雨に降られてしまう(今年は珍しく晴れたが)。会場は明治神宮会館。原宿で誕生したこの映画祭に最も相応しい場所である。会場に敷かれたレッドカーペットを歩くフィルムメーカーの人数は100人を超える。ここ明治神宮に、わざわざこの日のためだけに世界中から集まってくるのである。これだけでも感動的である。
授賞式の醍醐味は、やはり受賞者の喜びの顔、これに尽きる。長編映画を見慣れた人にしてみれば、短編映画というとアマチュアの作品と思うかもしれない。いやいや、侮るなかれ。彼らの作品にかける意気込みはプロにも負けてはいない。資金を集め、役者を集め、ストーリーを考え、一本の作品として完成させたこと、それは作り手本人にとってはかけがえのないことである。それが認められ、映画祭で上映されるだけでも素晴らしいことである。わざわざ世界中から監督たちがこの日のために積極的に集まってきたのは、作品が認められたことを実感し、この経験からまた新たな道が切り開けるかもしれないからであろう。
作品として作っただけでも素晴らしいこと。審査員の北村一輝は「1つだけを選ぶなんてとてもできない。みんなに賞をあげたい」と話していたが、それでもどれか1作だけを選ばなければならないわけで、勝者は最後までわからない。だから、もし賞でも取ったりしたら、作った本人はそれはもうただただ嬉しいに決まっている。選ばれた監督はみんな、本当に幸せに満ちた表情をしていた。それを見る我々もまた幸せを分けてもらった気になるのである。今年は「ミュージックShort部門 クリエイティブアワード」を受賞した岡元雄作監督が、幸せをいっぱい噛み締めながら「出演者も来てるのでここに上がってもらってもいいでしょうか」と言って出演者をステージに呼び出すという何とも微笑ましい異例の出来事もあった。
この映画祭から長編映画の監督として巣立っていった人もいる。ジェイソン・ライトマンがそうだが、2009年に優秀賞を取った落合賢もウエンツ瑛士主演の『タイガーマスク』で長編映画デビューすることが発表された。落合賢は、同映画祭・スカパー!と協力して、3Dオリジナルショートフィルムの製作にもあたっており、ショートショート発の監督として、今後の活躍にも注目が集まっている。
映画祭代表の別所哲也は、毎年貪欲に新しいことに挑戦していく意気込みを語っていたが、今年も例年と同じく新たな賞が多数新設された。「CG部門 supported by デジタルハリウッド」では、デジタルハリウッドが協力してCG作品の中から受賞作品を決定。世界トップレベルのCG作品を紹介していく。「ネスレアワード」では、ネスレの協力によりインターネット上で短編映画を無料公開し、人気投票により受賞作品を決定する。「モエ スター アワード」では、シャンパンブランド「モエ・エ・シャンドン」が受賞作品を選出。名優ジュディ・デンチが出演した『フレンド・リクエスト』が同賞に選ばれ、受賞者にはシャンパン型のトロフィーが贈られた。
今年、同映画祭最高の栄誉であるグランプリに輝いたのは平柳敦子監督の『もう一回』だった。同映画祭で初めての日本人女性監督の受賞である。平柳は「喉から心臓が飛び出しそうです」と驚いていたが、賞金60万円の使い道については「次回作のための資金を集めていたところでした。これで作れます」とクリエーターらしいコメントで場内の笑いを誘っていた。彼女の喜ぶ表情を見て、また今年も素敵な感動をもらった思いである。(取材・澤田英繁)
■受賞作品
部門名 | 受賞作品 | 監督 | 製作国 |
---|---|---|---|
グランプリ | もう一回 | 平柳敦子 | 日本 シンガポール |
インターナショナル部門 | エドモンドとロバ | フランク・ディオン | フランス カナダ |
アジア インターナショナル部門 | 泥棒 | ジェイ・チャン | 台湾 |
旅シヨーット!プロジェクト | ニービチの条件 | 岸本司 | 日本 |
ストップ温暖化部門 | 地球を救え! | ジェイコブ・ボンド | カナダ |
ストップ温暖化部門 J-WAVEアワード |
物を大切に | ワン・チェンヤン | 台湾 |
CG部門 supported by デジタルハリウッド |
フラミンゴ・プライド | トーマ・エシュド | ドイツ |
ミュージックShort部門 シネマチックアワード |
グッドカミング 〜トオルとネコ、たまに猫〜 |
月川翔 | 日本 |
ミュージックShort部門 クリエイティブアワード |
Bubble | 岡元雄作 | 日本 |
モエ スター アワード | フレンド・リクエスト | クリス・フォギン | イギリス |
ネスレアワード | ゴーストの幸せなレシピ | ロレット・ベール | アメリカ |