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『バトルシップ』これがハリウッドの「本気」

海軍とエイリアンの壮絶な戦いを描くアクションSF大作『バトルシップ』が公開中だ。この映画、あらゆる意味で期待以上の作品になっている。筆者はお世辞抜きにひょっとしたら来年アカデミー賞の最優秀作品賞もいけるんじゃないかと思っているくらいである。今週号のシネマガではこの話題作『バトルシップ』について徹底的に語りたいと思う。


「ユニバーサル映画100周年記念作品」、これがこの映画のキャッチコピーである。正直最初はなんてセコイ宣伝文句かと思った。「アカデミー賞最有力」とか書いて意地でも気を引こうとする宣伝文句と同じ類だと思っていた。「はぁ? テイラー・キッチュだぁ? そんな俳優知らんな。リアーナは歌手としてはトップスターだけど映画女優としてはド新人。浅野忠信も『マイティ・ソー』に出ただけで、アメリカでは知名度は高くはないし、ユニバーサルの100周年の映画に出れるわけないだろ。どうせ日本の宣伝マンが客引きのために考えたキャッチコピーだろ。100周年なんてデカく出るにもほどがある」。それが最初に思った正直な感想だった。


いやいや、ところが、これが嘘じゃなかった。本気でユニバーサルが総力をあげて作る文字通り本当に100周年記念作品なのである。まさか、100周年という節目の作品に、日本人が準主役で出ていて、しかもここ日本で世界最初のプレミアを行うなんて、なんだか感動じゃない?


本作のワールドプレミアは、去る4月3日に代々木体育館で行われた。この日の東京は傘が全く役に立たないほどの嵐の中だった。電車はほぼ運休、その他の交通網も麻痺していたが、それでも観客は集まり、会場は満席。体育館内も時折強風で天井からみしみしときしむ音がしていたが、何事もなく無事にプレミアは行われた。


ゲストが豪華で、客席にもエグゼクティブの面々。日本語吹替に出演している土屋アンナや、ユニバーサル・ミュージックの人気シンガー、ピクシー・ロットの姿も見えた。舞台挨拶には、テイラー・キッチュら主要キャストの他に、プロデューサー陣からスタッフまで、さらにはなんとユニバーサル映画の会長までも登壇して謝辞を述べた。石原慎太郎東京都知事もこのプレミアの重要性を認めていたようで、「日米関係がよく描けている」とのメッセージを送っていた。これだけ豪勢なプレミアは他に類を見ない。日本でこれほど宣伝にお金をかけた洋画は4年前の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(こちらはパラマウント作品)以来ではないだろうか。作品の出来に自信がなければできる芸当ではない。


ユニバーサル映画100周年ということで、ユニバーサル映画をまとめたリールも上映された。トレードマークの地球の映像は、以前よりキラキラと輝きが増した。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で巨大スピーカーに吹き飛ばされるシーン、『E.T.』で自転車が空を飛ぶシーンなど、『フランケンシュタイン』から『イングロリアス・バスターズ』まで、『ジュラシック・パーク』のBGMに乗せてユニバーサルが生んだ名作映画の数々の名シーンが流れ、映画ファンなら思わずうるうるしてしまう映像集であった。これを見せられてはさすがに100周年を迎えた実感も沸いてくる。


筆者は「地球人対エイリアンなんて、なんちゅう安っぽい発想なんだよ。それで100周年かよ。会社の評判落ちるぞ」と映画を見る直前まで思っていたけれど、実際見てみたら、もう想像以上にすごい映画で。最初の5分を見たところで傑作の予感がした。映像といい音響といい、他の映画とは質の高さが格段に違っていて、最初の5分で「これは本気で作ってるな」とわかった。


ピーター・バーグ監督は「これはユニバーサルの”祭り”。”祭り”はとにかく盛り上げなければいけない」と言っていたけど、あえてエイリアンとの対決というシンプルなストーリーを選択したのは正解だった。わかりやすい内容にしたことで「映画」というエンタテインメントの生粋の楽しさを体感できる。映画のツボをよくおさえた、熱いドラマであり、男なら涙が出るほどカッチョ良い一本である。都合の良い展開も多かったけど、そういう細かいことをまったく気にさせない圧倒的な押しのパワーがこの映画にはみなぎっている。


筆者が最も感動したのは音響である。砲撃シーンの効果音の厚みがこれがもうたまらない。ドッカンドッカンとボリュームが高い音なのに、これが騒音とならず、まるでロック音楽を聴いているような快感がある。そして映像の重量感。これでもかというほど派手な破壊シーン。なんと豪快でなんと粋な映画であろうか。


エイリアンをやっつけるシーンがどれもこれもすこぶる気持ちがよく、映画を見ながら拳をぐっと握って本気で「そうだ!もっとやれ!」「今だ!撃てー!!」と心の中で叫んでしまった。これほど力が入った経験は過去あっただろうか。なんだか見ていてとっても気分がよく、筆者は感動と興奮で手足がガタガタ震えてきたくらい。こんな映画体験はなかなかできるものではない。


ハリウッドのメジャースタジオといえば、ウォルト・ディズニー、コロンビア、20世紀フォックス、パラマウント、ユニバーサル、ワーナー・ブラザース、以上6社が存在する。この大手映画会社6社の中でパラマウントと並んで歴史の古いスタジオがユニバーサルである。そのユニバーサルが設立100周年作品と銘打った『バトルシップ』は、心から拍手喝采できる見事な作品となった。他の5社もこれに対抗して設立100周年を迎える年には何かすごい映画を作ってくれるのではないかと、そんな期待を抱かせてくれた。なんだか映画ファンとして大きな楽しみができたような気がする(これはもうパラマウントも黙っちゃいられまい)。まずはその「メジャースタジオの本気」というものを『バトルシップ』で体感していただきたい。100年もの間、映画という映画を作ってきた老舗ユニバーサルの100年の集大成。これは大きなスクリーンで見なきゃ損。ぜひ映画館でこの歴史的作品に立ち会って欲しい。(澤田英繁)

2012年4月16日 00時01分

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