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舞台『8人の女たち』みどころ

ル テアトル銀座にて、舞台『8人の女たち』が上演中だ。浅野温子、荻野目慶子、加賀まりこ、大地真央、戸田恵子、マイコ、牧瀬里穂、南沢奈央の8人の女優たちが共演。閉ざされた屋敷の中で何ものかに殺された一家の主人をめぐって8人の女たちの秘密が暴かれて行くミステリー作品である。

この舞台のユニークなところは、舞台が客席の中央にあるということである。仮に入り口よりも向こう側の席をAサイド、手前側の席をBサイドと呼ぶなら、Aサイドの人にとってはBサイドの方が奥になり、Bサイドの人にとってはAサイドの方が奥になる。観客は、役者たちをやや上から見下ろすような形で見ることになる。演出上、AサイドとBサイドは公平でなくてはならないので、セットはシンプル。壁はなく、ソファがいくつか並べられているだけだ。ソファは一列に並べられているのではなく、いずれも東西南北異なる方角に向けて並べられている。

客席は暗くしてあるので、向こう側の観客はあまり気にならない。むしろ、舞台に壁がないことで、闇の中にぽっかり舞台が浮かび上がる感じ。通常の舞台では感じられない独特の空気を体感することができる。

通常の舞台ではあまり奥行きを意識することはないのだが、この舞台では奥行きも重要な意味を持っている。通常の舞台ではステージがどんなに大きくても、役者たちは同じ横軸上で演技をするのがほとんどである。ところが、この『8人の女たち』では、本当の意味でステージに奥行きの概念がある。ある役者はAサイド寄りに立ち、ある役者は中央、ある役者はBサイド寄りに立つことで、奥行きを利用した心理描写が描かれているのだ。そのため、あえて役者が客席に背中を見せることもある。背中でも演技をする。これがこのミステリーの面白いところである。

登場人物も見事にキャラクターの個性が別れた。大地真央は輝くオーラを放ち、そのたたずまいには堂々たる存在感がある。浅野温子はまさに「真打ち登場!」的な感じでお色気担当役。大地真央との激しい取っ組み合いなど見せ場も多い。初舞台となったマイコはこれが初とは思えないハマリ役。ストーリーをぐいぐい進めて行く役目を果たしている。おいしいキャラは戸田恵子。シリアスなドラマの中でコミックリリーフとして観客の笑いを誘う。

舞台上に複数の役者が同時に立っているとき、普通ならば喋っている役者に注目するところだが、この作品では、横にいる役者に目を向けてみることも大事である。これはミステリーという形式をとった心理ドラマであるため、それぞれの登場人物の気持ちを考えてみるとまた違ったドラマを感じとることができる。みんなが同時に演技をしているので、誰を見るのかは観客の自由。一回目はAサイドから喋っている人に注目し、二回目はBサイドから喋っていない人に注目してみるのも一興だろう。

舞台『8人の女たち』東京公演は25日まで上演中。(澤田英繁)

2011年12月12日 00時35分

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