ディズニーが6年ぶりに手描きアニメーションを復活させた『プリンセスと魔法のキス』
2月10日(水)、六本木にて、ディズニーのアニメーション映画『プリンセスと魔法のキス』の記者会見が行われ、ジョン・マスカー監督、ロン・クレメンツ監督、ピーター・デル・ヴェッチョプロデューサーが出席。「魔法大使」ゲストとして、梅田直樹(27)、益若つばさ(24)が応援にかけつけた。
ジョン・マスカーとロン・クレメンツは、『リトル・マーメイド』、『アラジン』を監督し、低迷していたディズニーの新たな最盛期を支えた立役者。当時はディズニーの完全復活と言われたが、その後、『アラジン』の一部でも見られたCGアニメが進化し、『トイ・ストーリー』を筆頭にフルCGアニメが台頭。時代はフルCGアニメしか受け入れなくなり、とうとうディズニーはセル画を使った手描き方式のアニメを完全に廃止することを決定、6年前に今後デジタル一本でやっていくことを表明した。同時にマスカーとクレメンツはディズニーを去り、当時を「本当に悲しかった」と回想している。それから6年。フルCGアニメの旗手であるジョン・ラセターが「自分のこよなく愛するセル画の手描きアニメを復活させたい」と申し出て、再び手描きのアニメーションのプロジェクトが始動することになった。その作品がこの『プリンセスと魔法のキス』であった。ディズニーにとっては6年ぶりとなる手描きアニメとなる本作は、ディズニーの伝統であるミュージカルの形式を持ったアニメの復活、そしてプリンセスが登場するアニメの復活でもあった。
マスカー監督は「私たちは手描きのアニメーションが大好きなのです。私たちは宮崎駿監督作品を愛していますが、日本という文化は手描きを受け入れているので、日本の皆さんに『白雪姫』からのディズニーの遺産の世界を、スタジオにいる才能あふれるアーチストたちの実力をショーケースできる機会をもらえたのは本当に嬉しかったです」と話している。
マスカー監督は手描きの魅力についてこう語る。「子供の頃、絵を描くのは好きだったと思いますが、その絵が命を持つというのは素晴らしいことです。一度はパラパラ漫画で遊んだこともあると思います。手描きは有機的で温もりがあります。印象派のような表現も、顔の表情も、頭の中で思ったものをその場で手を通じて瞬時に紙に表現することができるのが醍醐味です。子供の頃から私はバンビやジミニー・クリケットを見て、実写よりも本物らしく、バイタリティを感じていました」
プロデューサーのデル・ヴェッチョは「ディズニーにつとめるアーチストたちは手描きもCGも器用にできるのですが、みんな手描きに戻りたくてしょうがないという感じで、やる気満々でした」とコメント。作品に対する意気込みの強さが伝わって来るようだった。
クレメンツ監督は「ディズニーは真剣に手描きの手法をやめる決断をしたので、当時今まで使っていた鉛筆、画用紙をすべて処分することになったのです。作業デスクもなくなって、アーチストたちもいらなくなりました。そのためスタジオを新たに建てるところから再開したのです」と話していたが、マスカーは「これに補足しますと、上司の命令に背いて、あるスタッフが、作業デスクを捨てずに倉庫に隠していました。そして手描きの手法を復活させることが決まったとき、その倉庫の扉が開けられたのですが、中に並べられた作業デスクを見た時、私はまるで魔法にかかったような気持ちになりました。これがディズニーの魔法なんだと、その時は本当に感動しました」と語り、このプロジェクトがどれだけ幸福に満ちたものだったか十二分に伝わってきた。
本作の舞台は1920年代のニューオーリンズ。ニューオーリンズを舞台にしたのはラセターのアイデアだが、20年代を時代設定に選んだのは監督2人のアイデアだった。「この時代にこの地でジャズが生まれ、世界中に広がっていった。ニューオーリンズにはあらゆる国の文化が根付いており、視覚的に描いても面白いと思った。300年前の時代ではなく20年代を描くことで、あまり時代を感じさせないタイムレスな感じにしたかった」とのことである。
ニューオーリンズが舞台ということで、必然的にヒロインはアフリカ系アメリカ人になり、これまでの受け身のプリンセスとは違って、女性の自立心を描くことになった。そしてニューオーリンズに根付いているブードゥーの文化が「魔法」として描かれることになった。
音楽はニューオーリンズ出身のロック・ミュージシャン、ランディ・ニューマンが担当。全編を軽快なジャズで彩っている。エンディング・テーマはニーヨが歌う。「ディズニーの映画は音楽がいい」という評判通りの名曲揃いで、歌だけでも泣けると絶賛されているほど。
今後もディズニーは手描きアニメーションを継続し、CGと両方の作品を発表していくという。マスカー監督は「アメリカでは唯一ディズニーがその両方を取り入れているスタジオですから」と話していた。
記者会見の後、女学生が理想の夫婦像にあげる梅田直樹・益若つばさ夫妻が、美しい王子様とお姫様の衣装で登場し、キスをすると一瞬にして蛙になる「魔法」のパフォーマンスを披露した。
益若は「夢は叶うということ。それには努力も必要だということを教えてくれる映画です。コツコツ堅実ぽいところが自分にもそっくりで共感しました。エンディングが驚くストーリーで泣いてしまいました。男の人が見ても楽しめると思います」とPRしていた。
『プリンセスと魔法のキス』は、今年のアカデミー賞の長編アニメ映画賞にノミネートされている。ストップモーションパペットアニメの『コララインとボタンの魔女3D』、フル3DCGアニメの『カールじいさんの空飛ぶ家』などと対決するが、『プリンセスと魔法のキス』はその中でも最正統派といえる内容。音楽とギャグ満載。全編に溢れる遊び心と、ワニやホタルの愛くるしいキャラクター。そしてディズニーさすがと言わせる感動のストーリー展開には思わず一粒の涙がこぼれる。手描き独特のあいまいな線のかすれ具合、塗料のざらつきがCGでは表せない独特の温もり。ラストシーンの美しさは、それは本当に魔法にかかったような、そんな心地にさせてくれる。
『プリンセスと魔法のキス』は、3月6日(土)全国ロードショー。(文・写真:澤田英繁)