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    細野ひで晃監督インタビュー

    『鈍獣』細野ひで晃監督インタビュー

    5月16日(土)よりシネクイント他にて全国順次公開中の『鈍獣』。浅野忠信、北村一輝、ユースケ・サンタマリア、真木よう子、南野陽子、佐津川愛美という異色の顔合わせ。ホストクラブに集まったこの6人の個性あふれる男女たちが見せるカラフルな人間模様。笑って、笑って、ゾッとさせ、ちょっぴり胸キュン。珠玉のミステリー・コメディの登場だ。脚本は宮藤官九郎。メガホンを取ったのは、卓越したビジュアルセンスが見る者を圧倒する鬼才、細野ひで晃監督。監督がこのほどインタビューに応じた。

    --CMの世界から映画の世界に来た理由は?

    「言い始めたら、それは高校のときに卒業したら映画を撮ると考えていたので、そう考えたら僕の考えはずっとぶれてないんですよ。10年間CMを作ってましたけど、その10年間映画を撮ることをやめてCMを作っていたんじゃなくて、ずっと延長で考えていました。別にCMをいい加減にやってたという意味じゃなくて、その経験を積んでいけばきっと映画にたどり着くと思っていました。」

    --なぜ『鈍獣』を選んだのですか?

    「舞台で『鈍獣』を見たとき、何でこれってこんなに面白いんだろうってずっと考えたんですね。それで、凸やん(浅野忠信)というもともと弱者と思っていた人が、だんだんだんだん恐怖になって逆転していったこと。強者と弱者がわかりやすかったことに気づいたんです。正義と悪がいて、正義が悪をやっつけるんじゃなくて、あれ、これ江田っち(北村一輝)が悪なのか凸やんが悪なのか、どっちが悪なのかというのがちょっと新しく感じたんですよ。最終的にみんな悪だし、みんな正義だ。凸やんは凸やんの中では正義だから、江田は江田の中で正義だし、でも江田からすれば凸やんは悪だし、これが人間なんだなと思ったことがすごく面白いと思った。僕にとってあなたは鈍獣かもしれないし、あなたにとって僕は鈍獣かもしれない。そういうもんだな。だからこそ何か気づくこと、ごめんと謝ったり、そういうことをわからなくちゃいけないんだなと思った。そこが面白かったんだなって。こういうのを映像化できたらとても面白くなると思った。」

    --映画では、どのようにして舞台劇との違いを出していったのですか?

    「通常のやり方と多分変わらないと思うんですけど、まず宮藤さんと会いまして、映画にしたときにこういうアイデアはどうかなとか、こういうストーリーはどうかと雑談みたいに話し合いました。あと、幼少時代のところはどうかとか、自分の笑い話とか言いながら。おっぱいを揉むあたりとか、あれって本当にやってたことなんですね。舞台は密室劇で、ほとんどホストクラブの中だけで見せる話だったんで、僕は江田が凸やんに殺意を持つ動機をはっきりさせたいと思って、映画ではときわ町を出そうと思いました。江田は東京では負けたけど、ときわ町では負けたくないんだ。凸やんが作品を書くことで、その地位が、彼自身が築き上げた王国が揺らいでいく。それを恐れて江田は凸やんを殺そうとする。そんなアイデアが雑談の中でどんどん生まれていきました。」

    --CMと映画の違いは?

    「よく聞かれるのですが、CMがある商品を告知するための映像ツールだとすると、映画は映画が商品なんですよね。CMはこの中身がうまいかどうか、映画は映画がうまいかどうかにかかっていると思います。僕はその認識で取り組みました。」

    --宮藤官九郎さんからアドバイスとかありましたか?

    「ないですね。脚本を元に自由に作らせてもらいました。宮藤さんとはこれが初めて一緒にした仕事じゃないんですけど、あまり何かを言われたことはないですね。たぶん信頼されてるんじゃないかなと思っています。大事なのは撮りたいという気持ちじゃないですか。それは凸やんが死なずに戻ってくることと同じです。」

    --アニメーションを使った理由と、スタジオ4℃に依頼した理由は?

    「25年前をどう描くかということが大きかったですね。実際演じてもらったのが浅野さんと北村さんとユースケさんなんですけど、配役としてリアルでやっていくというのは選択肢としてありますが、僕はもう少しファンタジーというか、昭和の感覚を表現できないかと思いまして。僕は36歳ですが、僕が子供の頃というのは、本当にアニメの時代だったので、大半はアニメの中で生活していました。アニメを見るというのが主流だったから、その感覚に戻したかったから、アニメにするのはどうかなって。作り方も、近代アニメじゃなくて、ノスタルジーがある、だけど情緒的なアニメにしたいと思っていました。
    スタジオ4℃については、以前FREEDOMキャンペーンで安藤裕章さんというアニメの演出の人と2年間ずっと一緒にやってたんですけど、この映画を撮るときも一緒にやろうということになって、それで安藤さんがスタジオ4℃にお願いしてくれたんです。あまりポップになりすぎずに、ノスタルジーだったりとか、そういう感覚を表現できるのが4℃の技術だと思いますね。」

    --主演の3人で感心したところは?

    「北村さんは、見るからに兄貴という感じで、その吸引力は本当にすごかったです。最後の森の中で"疲れたっていうな"というシーンがあるじゃないですか。あれが最後のカットだったんですけど、あのシーンってやっぱり江田っちも可哀相だなと思う瞬間なんですよ。あれって一発OKだったんですよね。あれはもう彼自身が本当に最後の最後まで江田っちをやってたんだなと思って、僕も感動しました。本当にやりきったんだなと。特に江田は難しい役で、みんな江田がどう思っているかでストーリーが展開していくから、彼自身の感情の起伏だったりとか、彼によって話にメリハリがつくので、気をゆるまずにやってくれたのはすごい役者だなと思いました。
    ユースケさんは表向きはひょうきんですけど、優しい人なんで、本当に周りの人にも気を遣ってくれます。僕に対しても、こういうことなんでしょと、先読みしてくれる気遣いのできる人でした。
    浅野さんは本当にいつも白紙で来るんですよ。北村さんはねっちりねっちりやっていくタイプでしたけど、浅野さんはどのシーンでも真っ白けで来るんで、肉付けしていく瞬発力が凄くて、一緒に演技を作っていくのが面白かった。凸やんってやる方にするとものすごく難しい役だと思うんですよね。その中でも浅野さんに挑戦して欲しいという気持ちはありましたね。
    演劇の映像化だと、”人が演じている”というのがあるんですよね。特にこの話には濃い三銃士がいますんで、そのプレッシャーがそれぞれ皆さんあったんだと思います。演技するアプローチが3人とも違っていますし、それぞれみんな考えて演技をしてるんだなという気がしました。」

    --監督は3人の中で誰が一番自分に近いですか?

    「これも良く聞かれるんですけど、意外と僕は全員に近いと思います。岡本がちょっと薄いかなと思いますが、江田と凸やんは確実に僕の中にいますね。客観的にみるとすごく江田の気持ちがわかるんですよ。王様でいる彼がみんなに気づかれたときに惨めな気持ちになるのがものすごくわかるし。凸やんが気づかない間に人を傷つけているという感じというのは、すごく幼稚なんですけど、自分の中にもやっぱりこういう幼稚性はあるんです。僕は凸やんに幼稚性というのを舞台よりももっと入れようと思って、ファッションリーダーといえる浅野さんに幼稚性を出してもらいました。あの格好もそうですよね。子供ってすごい残酷なことしますよね。セミを殺したりとか。僕も子供の頃残酷なことをやったんですけど、あんな怖いことをするのは鈍感だからなんですね。江田はナイーブな部分を、凸やんは幼稚な部分を持っていて、それは誰の中にもある。『鈍獣』は人が少ない話ですけど、的確にキャラクターが出来てると思います。」

    --佐津川愛美さんだけオーディションをしたんですよね?

    「何十人もやったんですけど、実は佐津川さんは一番始めの人だったんですよ。最初に決めたわけじゃないんですけど、やっぱり一番始めの人がノラちゃんだなと。すごい綺麗ですよね。もっと若い意味での会話があるんじゃないかって思ったんですけど、彼女はベテランの域というか、もう淡々とこなしていきますからね。別に佐津川さんってノラちゃんみたいなブリッ子じゃないんで、本当に演技でやってるからすごいと思います。」

    --セットや衣装が印象的でした。

    「もともとこれは戯曲だったんで、ポップな感じでビジュアル的な入り口から入って欲しいと思っていました。僕もそれが得意だというのが一番の理由だったんですけど、入り口のビジュアル面を、内面のドラマ性にどうリンクさせていくかというのもよく考えました。スーパーヘビー(舞台の中心となるホストクラブ)は和製ラスベガスをテーマに作りましたし、ときわの町というのも、アメリカナイズされた東京の象徴として作りました。」

    --意識している映像作家とかいますか?

    「スパイク・ジョーンズ、ミシェル・ゴンドリーですかね。僕は映像の作家性は大事だと思っています。長い目でみると、絵の文化って結構長く続いてたと思うんですよね。でも映像のアート性ってまだ始まったばかりなんですよ。そこを自分も試したいなと思ってますね。絵ってもう2・3周しちゃってるんで、さすがに絵は難しいですが、映像ってまだまだ未知の世界ですから。だってピカソ以上の絵を発見できるというのは相当なことですよ。映像にはまだまだ可能性があります。映像って、ハードの進歩によって変わっていくから、なんて素敵なアートなんだろうって。いつか美術館で額のように映像を見る時代が来るんじゃないかと思います。部屋に普通に流しておく映像ができたりとか。もしかするとそれは映像の次のアートが出て来たときなのかもしれないですけど。」

    --最も困難だった部分は?

    「うーん、なんですかねえ。ものを作るとき困難でないことはないから、僕はできたものを全部受け入れてるんですよね。悔いがないっていうか。本当すがすがしい気持ちでいます。そりゃできることとできないことって絶対あるんですよ。クリエイターだからどこまでも完成度をとがめたくなるんですけど、それを含めて受け入れています。35歳の僕がやれることは全部やったと思うんで、できないことは、やっぱりそれはどう自分の中で受け入れていくのかということなので。僕は消化しています。それは映画だけじゃなくてCMでも大変な部分はあるじゃないですか。困難といわれると、全部が困難といえば困難だし、でも宣伝も含めてこうやってああだこうだいってもこうやってこれたのは、本当に僕は恵まれていたのだと思いますね。なんか作り上げたことが実感としてあるんで、困難こそ楽しかったし、冒険だったんで。」

    --イメージ通り作れましたか?

    「一番大事なのは根底にあるメッセージが届くかどうかなんですよね。ビジュアル的な完成度だったりとか、映画的な完成度は僕ももっともっと経験して高めていかなきゃいけないと思うんですけど、この35歳の僕が『鈍獣』をやろうと思った大きなきっかけというのは、みんな人は鈍感であって、戦うのではなく共存するというのが言えるかどうかだと思うんですよ。それが破綻してたら僕は後悔すると思うんですけど、僕の中でそれは作れていると思うので、そういう意味ではすごく満足しています。
    CMをやっていてもメッセージの強いものを得意としているので、タレントが出て来てこれおいしいっていうのはやったことないので、FREEDOMだったり、NO BORDERだったりとか、やっぱり全部メッセージがあるんですね。だから映画も手段だし、CMも手段だし、写真展もやっているし、本を書かせてもらったり色々やっているんですけど、やっぱりメッセージだけは届けようと一番大事に作ったつもりなんで。」

    --この作品のテーマはみんなが鈍獣だったということですね。

    「テーマとしては、人と人が違うこと。それが大きいと思うんですよ。アメリカと日本は違うし、ニュージーランドと日本もやっぱり違う。どう人間と人間が共存していくのかというのが大きなテーマだと思います。共存するためには相手を知ることだったり、相手に気づけることというのが大事。優劣をつけることが共存じゃなくて、相手を理解して横のつながりをつくっていくということが共存だと思っています。気づいて受け入れていくというのがテーマです。凸やんもごめんなさいと謝ったのは、気づいたということだし。恋愛でも失ってから気づくことってよくあるじゃないですか。両親がなくなってから気づくことだったり。でも失う前に気づける気がするんですよね。失ってからじゃ遅いじゃないですか。凸やんも死なずに返ってきたから良かったんですよね。もしかして一発目で死んだら江田は後悔したかもしれないから。
    人間はもともと全員鈍感なんだということです。誰が鈍感だというと、僕も鈍感だし、みんな鈍感なんだと思います。この映画の登場人物はみんな鈍感ですよね。静(真木よう子)ですら鈍感に見えてくる。順子(南野陽子)は可愛い鈍感ですね。数日前みんなで殺そうとしてたのに、おみやげ買ってくることはないですよね。どんだけ鈍感なんだよって。僕は男だから女の子の気持ちってわからないし、いくら草食動物でも肉食動物の気持ちはわからない。それが世の中なんですよ。だからこそ自分は相手にとって鈍感な部分があることを気づかなくちゃいけないんです。本当気付くことって大事です。僕も映画を見て色々気付かされたことがいっぱいあるんですよ。マイナスのものが考え方ひとつで消化されることってあるんですよね。だからそういう風に誰かが気付いてくれればいいですね。」

    --映画作りで大切なことは何だと思いますか?

    「諦めないこと。もうそれ以上の説明はないですよ。やっぱり、結果ってわかんないんです。それは作ってる人全員がわかりません。結局みんな想像なんですよ。だからやりきることなんです。人事を尽くして天命を待つ。映画作りってこれだと思うんですよ。自分が気付くことをやる。みんなそういう意識でやるしかない。それ以上のことはないんです。監督は特に人事を尽くさないと天命は絶対来ないし、その意識が大切なんじゃないかな。映画作りは特に長いんで、人事を尽くせる体力は大事です。やることはいっぱいあるんですよ。どこまでいってももっとこうなのかもっとこうなのかと、やろうと思えばいくらでもやれるんですけど、与えられた時間の中でやらなければいけない。やったことに関しては、僕は結果はどうでも受け入れられますね。やり尽くすということが一番大事です。それは映画作りだけじゃなくて、何でもそうだよね。」(2009/5/8)

    細野ひで晃 【細野ひで晃】
    1973年西ドイツのデュッセルドルフ生まれ。小学校の時にイランイラク戦争を体験、大学をアメリカで過ごす。CMの世界に入り、日清カップヌードルのCMなどを手がける。海外での評価も高く、数々の賞を受賞。現在流れているCMではソフトバンクの「お父さんクリップストラップ」などが有名。『鈍獣』が初の劇場公開作品となる。

    『鈍獣』場面写真
    (C) 2009『鈍獣』製作委員会


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    10年前 2009/5/18 13:40:40
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