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業界史上初か。スタンディングオベーションに迎えられた初日舞台挨拶『桐島、部活やめるってよ』

8月11日(土)新宿にて、『桐島、部活やめるってよ』が公開初日を迎え、神木隆之介(19)、橋本愛(16)、大後寿々花(19)、東出昌大(24)、清水くるみ(18)、山本美月(21)、松岡茉優(17)、落合モトキ(22)、浅香航大(19)、前野朋哉(26)、鈴木伸之(20)、太賀(19)、以上12名のメインキャストと吉田大八監督(48)が舞台挨拶を行った。



上映後の舞台挨拶であったが、この初日は、なんと観客全員が立って登壇者を拍手で迎えた。橋本愛はこの光景を見て感動してすぐに泣き出してしまった。筆者もこれまでにたくさんの舞台挨拶を取材してきたが、初日のスタンディングオベーションを見たのはこれが初めて。おそらく業界史上初ではないかと思われる。どんな作品でも拍手は当たり前のこと。今回は客がわざわざ立って拍手することに意義があるわけで、それだけこの作品を本当に良かったと伝えたい気持ちがあったからに他ならない。劇中で神木と前野は「映画部」の部員を演じているが、これを受けた前野は「まるでカンヌ国際映画祭に来たような気分になって夢みたいな気分を味わいました。僕もこの映画を最初見た時にすごい衝撃で、それが皆さんにも同じことを感じたのかなと思いました」といかにも映画部らしいコメントで観客を沸かせてくれた。


この映画、上映前から前評判がかなりよく、連日の試写会も満員状態だった。一時、試写会の来場者数が予想を大きく上回り、ホールがパンクして、試写会に入れなかった人たちのクレームがあり、会場が一時騒然となるハプニングもあったほどである。


この初日にはあるドッキリが仕掛けられていた。この日、出席するはずだった佐藤プロデューサーは風邪のため欠席。その代わりに佐藤プロデューサー本人による12人のキャストたち一人一人へのメッセージが司会者に朗読された。このメッセージがかなり泣かせるメッセージで、佐藤プロデューサーがいかにこの映画に情熱を注ぎ、またいかにキャスト12人を我が子のように可愛がってきたことがよくわかる素晴らしいメッセージであった。全員分掲載すると長くなるので、橋本愛、神木隆之介宛のメッセージだけ掲載しておく。


橋本愛宛のメッセージ
「あなたは天才肌の人だと思っていました。でも実際には悩んで苦しんで必死に演じている。その姿を見てより好きになったし感動しました。芝居は上手とか下手とかではなく、見る人の心に届くかどうかだと思います。あなたの芝居は必ず見ている人の心に届きます。スクリーンに映るあなたをずっと見ていたいと思わせてくれますから。そして何より橋本愛がこの現場をこの作品を大事に思ってくれていることが僕は本当に嬉しいんです。僕もこの現場がみんなが大好きだから」


神木隆之介宛のメッセージ
「みんなが知っている神木隆之介。みんなに愛されている神木隆之介。そんなパブリックイメージを軽々と飛び越えて、神木くんは僕らを楽しませてくれます。それは映画に対して、芝居に対して、絶対に嘘をつかないから。撮影現場はもちろん、プロモーションでもこの作品を本気で背負ってくれました。そんな純粋さがみんなを引っ張っていってくれるんだと思います。とてつもなく重い責任を感じさせない軽やかさで担ってくれた神木隆之介。最高で最強の座長でした。本当にありがとう」


12人全員がこのようにメッセージを送られて、もうみんな涙涙の連続。「佐藤プロデューサーは本当にいい人で、僕らのことを愛してくれていました」と神木。東出も「この場で死にたいくらい幸せ」と感動していた。佐藤プロデューサーから「泣き虫」とあだ名されていた清水は「本当に佐藤プロデューサーにはよくしてもらったんです。今日は泣かないつもりだったのですが、楽屋に帰ったら大泣きします」と話し、佐藤プロデューサーの人柄の良さが伝わってきた。そんなとき、突如映画館の照明が消えた。本当に真っ暗でもうなんにも見えない。「やだやだやだ」といいつつ期待を膨らませる登壇者たち。


急に明かりが点くと、登壇者たちはゾンビ集団に取り囲まれていた。びっくりした神木。というのもこのゾンビ集団は、劇中で「映画部」の部員たちを演じていたキャストたちで、神木とは撮影中もいつも一緒で、苦楽を共にしてきた仲間たちだったのだから(彼らは劇中ゾンビ映画を自主制作する。ゾンビは自主制作の基本ですからね)。しかもその中に、風邪で来られなかったはずの佐藤プロデューサーまで混じっていた。「あ! 佐藤プロデューサーいるじゃないですか! 風邪じゃなかったんですか?」と神木。佐藤プロデューサーは3日前からマスクをして風邪のふりをしていたというから何とも徹底している。このドッキリにみんな大喜び。またここでも橋本愛は「佐藤プロデューサー、もう年なのかと心配してた」と笑いながら泣き出した。佐藤プロデューサーも愛するキャストたちにハグして初日の喜びを分かち合っていた。


このドッキリに神木もすっかりエキサイトして、「いやー、久しぶりだね。わざわざ映画のときと同じようにゾンビの姿で。よく来てくれたねぇ〜!」とかなり楽しそう。現場ではアニキ分として彼らを支えてことをうかがわせた。「今まで舞台挨拶をやらせてもらっていて、こんなに楽しくてこんなに感動した舞台挨拶は初めてで、僕の人生の思い出になりました」と興奮気味に語った神木。こんなにはしゃいでいる神木隆之介を見たのは筆者も初めてである。また、佐藤プロデューサーはせっかくこうして来てくれたゾンビたち一人一人にも一言ずつ挨拶させる気配りまで見せ、40分超の舞台挨拶は大盛況であった。佐藤プロデューサーによる様々な仕掛けと、全員浴衣という絵になる衣装で、色々な意味で奇跡的な舞台挨拶になったと言える。


しかし、スタンディングオベーションというのはさすがにすごい。筆者も試写会がパンクしたときからずっと気になっていたが、キャストたち全員が初日舞台挨拶で泣くほどの映画だから、もう見ずにはいられなくなり、早速初日に見に行ってきた。筆者は池袋シネ・リーブルで鑑賞。映画館にはキャストの劇中衣装が展示されていた。大きな映画館ではないが、この映画の雰囲気に最もふさわしい大きさの映画館だったと思う。


感想だが、「青春映画」という肩書きの作品では、屈指の傑作だと思う。バレーボール部、映画部、野球部、バドミントン部、吹奏楽部、剣道部など、たくさんの部活が登場するところがバラエティに富んでいて面白い(もちろん帰宅部もある)。筆者は神木の役に共感しまくり。恋愛とか、なんか憐れなほど自分に似てるところがあって見ていて痛々しく・・・。群像ドラマとしてもその完成形ともいえる出来栄えであり、タランティーノの『パルプ・フィクション』のように、12人の登場人物がそれぞれのシーンごとに主役の立場が変わり、時間がバラバラに、それぞれの視点で描かれる。それがラストにはいっきにつながっていく。個々のシーンこそ軽いノリの青春映画だけど、全体を通して見ると、これがなんだかハートに訴えかけるエモーショナルな作品である。


以下ネタバレあり。筆者が感じたのは、この映画にはすごく映画愛があふれていることである。まず神木演じる映画部員のウンチクからして面白い。クライマックスをマジックアワーにもってくるなど、この粋な計らいに映画愛を見た。フィルムとビデオの違いを語るとき、「よくわからないけどフィルムにはビデオにない何かがあるんだ」というセリフがあるが、筆者はこれがこの作品のテーマだと思った。このセリフのように、説明できないけど、なんかこう胸にくる何かがいっぱい詰まった作品だと思う。


そしてこれを傑作のものにしているのが、エンドロールにかかる高橋優の主題歌「陽はまた昇る」である。本作は音楽で完結している作品である。普通なら歌のバックに映像のひとつでも入るところだが、これには映像など何もなく、ただ歌一本だけで勝負している。この歌が12のストーリーのすべてをまとめて締めくくっている。この曲は単独で聴いても名曲だが、映画を通して見てから最後の最後で聴くと感動がまったく違う。何も映さず、そこにこの歌だけがある。衝撃的なまでの余韻が胸に残る一本である。(澤田英繁)


桐島、部活やめるってよ』は、ショウゲートの配給で、新宿バルト9他全国にて公開中。

2012年8月13日 12時34分

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